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第1章

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第一話


「転校生だって?」
「・・・うん」



「俺のことはマークって呼んでくれよな!」
「じゃぁ 僕のことは、ジャックって呼んで・・・」



「よろしくな!ジャック」
「うん・・・よろしく・・・マーク」








山の中を進む四人の子供たち。ここは彼らの通う小学校からすれば隣町にある山。
しかしまだ小学生の彼らにすれば遠い冒険に出るようなものだった。

ジャック「どこに行くの?」
マーク「俺たちしか知らない秘密の場所だ」

この二人に同行する女の子二人

真樹「この山の奥にちょっとした場所があるんだよね」
七瀬「マーク危ないからあんなことしないでよ!」

マーク「何言ってんだ!今度こそアレ取ってやる」
ジャック「?・・・一体何?」
マーク「まぁ行けばわかるさ」

獣道が続く山の中を20分も歩いたろうか・・・突然開けた場所が現れる。
ここが彼らの言う秘密の場所だった。
開けた場所といっても50m四方しかない明らかに不自然な場所である。
その場所はこれまで歩いてきた道とは違い木々が一本もない。切り倒した痕もない。
どこからか湧き水が流れてきているのか池ができていた。
そしてこの場所のおくには木製の鳥居のようなものがある。鳥居のようなものといっても
高さも3mほどしかないもので、明らかに何かが違う。
周辺には建物があった形跡もほとんどない。

誰も知らない秘密の場所・・・それ故に彼らにとってこの場所は宝物だった。

マーク「な?アレ見えるだろ? 黒い玉みたいなやつ」

鳥居のようなものを指差しマークがジャックに聞く。しかしジャックの身長では「アレ」は見えなかった。
真樹と七瀬にも見えない。しょうがないなという表情をしたマークがその隣にある木におもむろに登り始める。

真樹「危ないからやめなさいって言ってるでしょ!」多少怒り気味に彼女が言う。
マーク「平気だって!」

木の幹からではその位置には手が届かない。横に伸びた枝だけがそこに届く唯一の場所だ。
3m近く登ってしまうと他の枝や葉が邪魔をして「アレ」がどこにあるのかハッキリとは分からなくなる。
子供とはいえ一人乗りかかれば折れるかもしれない。それはマークにも分かっていて今まではギリギリのところで
諦めていたが、新しく友達になったジャックの前で彼はカッコつけたかった。
枝に必死でつかまりながら手を伸ばして「アレ」を探す。状況が状況だけに彼の視界は自分の足元ばかりだった。
「たしかこの辺のハズ」そう思って手をさらに伸ばしたその時・・・

バキッ!!!!
「いってぇぇぇぇぇ!!!!!」






第一話「転校生」




たいした高さもないベッドを器用にも頭から落ちたマークが大声をあげる。
今の彼は中学3年生だ。
打った頭を押さえながらベッドの横にある写真立てに目をやる。
「あれから6年か・・・」夢からさめた彼は呟いた。
その写真たてを持ち上げながら「もうすぐだな」と遠い目をする。
そしてふと時計に目をやると8時15分を指していた。
「ヤベェ!」
顔を洗いすぐさま制服に着替え朝食も取らずに家を出る。
玄関を開けひとつ先の電柱まで行くとジャックが立っていた。
左腕の時計を見せながら
「2分遅刻だぞ」「地震の後片付けで出るのが遅れたか?」ジャックが言う

マーク「地震?それでかぁ。」「まぁ・・細かいことはナシ・・・飯も食わずに急いだんだからさぁ」
ジャック「なんだよ寝坊か?まさか受験勉強のしすぎとか言うんじゃないだろうな?」
マーク「それもあるんだけどさ 変な夢見ちまってな・・・」
ジャック「夢?」
マーク「そうそう・・・そういやおまえ転校生だったんだよなぁ。」
ジャック「なんだ忘れてたのか?夢って昔のことか?」
学校に向かいながらそんな普通の会話していた。

そのときマークを電柱の影から見ている人物がいたことに2人は気づくことなかった。

「おはよう!」教室のドアを開けると誰からともなく声がする。誰が誰にというわけではない。
それが挨拶というものだ。朝のホームルームが始まるまでは各自が適当な位置でおしゃべりをしている。
マークは荷物を席に置くと教室の窓側に立つ。ここから見る景色に何かの変化があるワケではない。
ただ毎日そうしているだけだ。だがこの日はいつもと違う絵がみんなの目に飛び込む。
見たことのない制服を着た男子が一人校門を入ってきた。田舎のこの学校ではある意味事件のようなものだった。


田舎町
といっても人口10万人規模。日本海に面したこの街はかつては漁業で栄えていた。しかし繁華街の変遷等さまざまな
理由によってかつての面影はない。ただひっそりと時間が過ぎていくようなそんな街である。


そんな田舎であるせいもあって、何年生なのかも分からないのに転校生かもしれないというのはクラス全体の話題になる。

ガヤガヤとそんな話題で盛り上がっていたところに、いつもより遅れて担任が入ってきた。
担任「アー突然でなんだが転校生だ。みんな仲良くやってくれ」
担任「自己紹介してくれ」

言われた男子は一言も喋らなかった。ジャックは昔の自分が重なって見えた。「たぶん緊張してるんだろうなぁ」そう思っていた。
埒があかない担任は「ハヤミコウイチくんだ。よろしくな」そういって彼の背中を軽くたたいた。

転校生の彼はほとんど誰とも喋らないまま放課後になる。顔立ちの整った彼を女子は羨望の眼差しでみる。だが彼に直接言い寄るものは
一人もいなかった。田舎の子供なんてそんなもんである。だがそれ以上に彼は「人を近づけない何か」を持っていた。

なんともいえない感情を持ったマークは、遂に彼の席の横に立ち話しかけようとする。
ジャックは「やっぱりか」と思い自分も彼の近くに移動する。

マーク「おい転校生」マークに悪気はないが、初めての言葉にしてはいささか乱暴だ。
しかし彼は席に座り両手を顔の前に組んだまま表情を崩さない。
マーク「おい転校生聞いてんのかよ」
「その呼び方はやめてくれ」はじめて彼は口を開いた。
ジャック「俺もそうだったから分かるんだけど、その言葉には余所者って意味があるから嫌なんだよな」ジャックが割ってはいる。
マーク「そうか・・・ワリィ・・・俺はマーク」マークは良くも悪くも素直な男だ。
マーク「よろしくな」
かつてジャックにそうしたようにマークは左手を差し伸べる。
だが彼はその手に興味を示さなかった。
「俺のことはヴァッツと呼んでくれ」ただそう言った。
だがそのことはマークにとってもジャックにとっても少し心開いてくれたと思わせていた。
その安心感はマークを次のステップに進ませる。
「あそこに連れて行こう。」彼はすでにそう考えていた。そしてそれを考えていることをジャックは分かっていた。

あれから6年経った今でもあそこは秘密の場所であり彼らの宝物だった。

マーク「もう9月だしさぁ。受験とかどうすんの?・・・それに親とか何してんの?よかったら相談にのるぜ?」
ヴァッツ「個人的な問題でもあるしここではあまり喋りたくないな・・・」「出来れば人のいないとこで話したい」
相変わらず表情を変えずに話す。
マークは待ってましたと言わんばかりに「それならいい場所がある!」と切り出した。

教室の前方で自分の荷物を整理しながら同じく3年生になった七瀬歩がその会話を聞いていた。
七瀬「相変わらずだねぇ」「マークは誰とでも仲良くなっちゃう」
 
マーク「どうだ?七瀬も一緒に・・・」

教室のドアを開けながら七瀬が言う「ごめん。今日は生徒会があるから。また今度誘ってね。」

ジャック「おいおいお前はもう生徒会長じゃ・・・」台詞が終わらないうちに七瀬は出て行った。

 
市立M中学校
街の変遷と共に統廃合が繰り返され実質的な開校から20年程度。浅いその歴史の中で初の女生徒による生徒会長となった七瀬歩。
そのことは彼女にとっても誇りである。選挙は終了し生徒会は一新したが面倒見の良い彼女は新しい生徒会になにかとアドバイス
という名のおせっかいを焼きに行っていた。

マーク「まぁなんだ二人ほど足りないけど、今すぐ行こう」3人は学校を出た。

例の山は、この中学校のすぐ裏にある。
目的地に行くまでの間もマーク達は一方的に喋り続けていた。

マーク「で、さぁ そのもう一人が「若菜真樹」っていうんだけど・・俺たち4人一グループでね・・。」
ジャック「若菜は別の中学に行ってるんだけど、高校はみんな一緒にしようって話でさ」
マーク「てワケでさ・・お前さんもどうよ?ってこと」「まぁレベルはそこそこ高いガッコだけど」
ジャック「お前が一番危ういんじゃねーか」
マーク「だから必死で勉強してるんだよ!」
マーク「受験戦争という名のイカレた戦い・・・もう嫌だぁ!!」

若菜真樹
彼女は親の教育方針から私立の中学校に通っている。この学校は全寮制で長期休暇を除けば家に帰ることはない。
また親族以外は連絡をとることもほとんどできない。マークたちは長期休暇の際にようやく会うことができる。
そこで高校進学の話を合わせていた。勿論そういった家柄であるため進路先の高校もレベルを下げることはできず
マークは勉強に追われるハメになる


そんな話をしているうちに例の場所にたどり着いた。
「どうだ?ここなら他の奴も知らないし・・・なにより落ち着くだろ?」
池の淵にある大きな石に腰を掛けマークは言った。

ヴァッツはどう見ても人と話すことに慣れていない。マークは自分なりに気を使っていた。

この場所に来てからヴァッツはやたらと辺りを見ている。そしていやでも目に入る鳥居のようなもの。

ヴァッツ「まさか・・・これか・・・」ヴァッツは、驚愕しながら言う

マークとジャックは顔を合わせる「?」

ヴァッツ「ここで何かを拾ったろう?」背を向けたまま尋ねる。

マーク「う〜ん・・・黒い玉のようなものがあったんだけどさ・・・掴んだと思ったんだけど、結局見当たらなかったんだ」

ヴァッツ「それはお前がだな!マーク?」

マーク「あぁ!・・・それよりも親とか何してんの?それで転校してきたんじゃないの?」
ヴァッツの質問の意図を理解できなかったマークは自分の興味の話しかできなかった

制服のネクタイを緩めながら彼は言う「親なんかいない!」
彼の周りの空気が極端に変わる。怒っているというワケではなさそうだ。が、明らかに敵意がある。 そして彼はマークに言った。








「俺はお前を殺すためにこの学校に来たんだ!!」






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img005 posted by (C)無縁 今回のイメージイラストその1 今回のイメージイラストその2

〜続く〜


第二話



マーク「殺すって・・・何言ってるんだ?」

マークにとって彼のセリフは冗談以外に受け止められなかった。
だが、冗談だと思おうとしても彼の雰囲気はそれが冗談でないことを指し示していた。

ヴァッツはゆっくりと近づきながら言う。

「理由を知る必要はない。その方が幸せだ」

マークはヴァッツが本気であることを悟ると警戒した。ジャックはその横で未だ事態を飲み込めないでいた。

マークは警戒を解かずに静かにジャックに言った

「なんかヤバイな・・・誰か呼んできてくれ。」

誰にも知られない場所。自分たちだけの居場所。そこに誰かを呼ぶということが何を意味するか・・・
ジャックはそれを覚悟であると判断し頷くと同時に振り返り走り出す。

マークを注視していたヴァッツだが、それを見過ごしはしなかった。

「させるか!」

一瞬消えたかと思うとすでにジャックの前にいた。
広場の出入り口にあたる巨木の前。ジャックは冷静になろうとしたが思考が追いつかない。
とにかく走ればよかった。そう思う間もなく立ち止まっているジャックにヴァッツが言う。

「邪魔を入れられると後々やっかいなんだ」

ヴァッツの右手が霧に霞んだように見えてきた。だがその霧は酷く黒い。
彼は左手でジャックを巨木に吹っ飛ばすと、次に右手の黒い霧をばら撒いた。

痛いとかそういう感覚を感じる以前にジャックには何が起きたのかを整理する暇がなかった。
状況を把握する前にジャックの体は、巨木の一部ごと氷付けにされてしまう。

ふうっと息を吐くと同時にヴァッツは改めてマークのほうを見た。

マークはジャックの名を叫ぶと同時に走り出す。

ヴァッツはこれをチャンスだと思い同時に彼のほうへ間合いを詰めた。そして攻撃をした瞬間・・・

どうやったのかマークはそれをかわし巨木の前へとたどり着いていた。

マークはジャックの体を覆う氷をおもいっきり殴りつける。
「ちくしょう!」そう叫びながら何度も何度も殴りつけるが氷にはひび一つ入らない。もはや彼の拳は血だらけになっていた。

ヴァッツ「無駄だ。俺の氷はその程度では割れない」まっすぐにマークを見ながら彼は言った。

マーク「なんなんだよ!手品かなにか知らねぇけどなんとかしろよコレ!」マークの表情は怒りに溢れている。
マーク「殺したいのは俺なんじゃねーのかよ」この時点でマークは思考を停止して現実を受け止めていた。

ヴァッツ「お前を殺せればそれでいいんだ」「そのあとでジャックは解放してやるよ」

マークはそれを聞いて少しだけ安心した。だがそれと同時に自分に向けられている殺意に対して更なる怒りがこみあげてきた。



この状況を木陰から見ている二人の男がいる。
大柄な体躯、スキンヘッドで後頭部から額に大きな傷跡を持つ男ヘイジ

ヘイジ「ヴァッツの奴勝手なことを・・・」「どうする?ナガレ」

ナガレと呼ばれる顔の左半分を鉄火面のようなもので覆った白衣を着た老人。しかしその眼光は鋭い。

ナガレ「余計なことをする必要はない。」「結界は一応張ってあるしな」
無表情のまま言うナガレに、ヘイジは内心あせりながらも従った。



マーク「なんで俺が殺されなくちゃならねぇんだ?そのくらいは教えてくれてもいいんじゃねぇのか?」

今の彼にとって本当はどうでもいいことだった。だが、現実と非現実、ヴァッツのさっきまでと今の違い、自分に対する殺意
それらが彼の中でごちゃ混ぜになり兎に角何か会話が必要・・・そんな感覚にとらわれた結果出てきた言葉だった。

ヴァッツ「お前は、いや俺達はこの世に生きてちゃいけない存在なんだ」これまでの彼とは変わって意思を込めた強い口調だ。

マーク「ひょっとしてお前みたいに手品ができるようになるとでも言うんじゃねーだろうな?」
彼はヴァッツを含めた自分たちという言葉に反応していた。今受け止められる精一杯の現実。そこからでてくるアンサー。
マークのセリフは思考限度いっぱいでありながら皮肉を込めて言った。

ヴァッツは言う「そうなったら終わりだ。」

強い意志があった。そのセリフは自分人身に対する意思確認でもあったかのように彼の雰囲気を更に強固なものにした。
そして・・・・「確実に首を落とす」そう言うと彼の右腕に黒い水が集まりだす。それは形を整え刃状になった。


ヘイジ「お、おいアクアブレードまで出しちまったぜ。」「マジでヤバイんじゃねぇのか」
しかしナガレは表情を変えることはない。
ナガレ「なぜアイスプレードじゃない?」
それを言われたヘイジは、少し考えると静観することを続けた。

ヴァッツは右腕を左わき腹のほうにまわしマークの懐に飛び込む、と同時に右腕を大きく振り上げた。
マークはそれを間一髪上体をそらしかわす。
姿勢としてはマークのほうが劣勢だったが、攻撃を(またも)かわされたヴァッツは一瞬戸惑ってしまう。
戦闘状態になると同時に思考を停止していたマークは左足を一歩後ろに下げ右手で思いっきりヴァッツの頬を殴った。
ヴァッツはかわされたショックで体に緊張がなかったせいもあって吹き飛ばされる。そして自身の頬に手を当てる。

「熱い・・・」地面を見ながら驚愕して言う。

そしてヴァッツは思った(まさか・・・まさか・・・もう始まっているのか・・・)


第2話 「覚醒」


殴ったマークはハァハァと肩で息をしていた。なぜヴァッツが吹っ飛んだのか?どのくらい力を入れたのか?殺されなくてすむのか?
そんなことを考えてはいたが、それ以上に意識が飛びそうになっていた。そして体が異常に熱くなってくるのを感じていた。
胸の中心部からどんどん熱さが伝わってくる。遂にマークはそれに耐えられなくなり思わず声をあげた。

「ウォォォォォッッッッッ!!!!!!!!!!!」

マークの体が赤く変色すると同時に両手が膨張する。どう見ても人の手ではない。そしてその手は炎の塊となった。

ヴァッツ「覚醒開始か・・・自分でも見えるだろう?その両手。」「これで分かったろう?」「なぜ・・・」
そう言いかけたときマークの巨大になった炎の拳が上から襲ってきた。
間一髪それを右方向へ回避した、が今度は左手が襲ってくる。(ガードは間に合わない)そう判断した彼は後ろに飛びのいた。

マークは地面に右手を突き刺したままの状態で苦しんでいる。
「うぅ・・・」
ヴァッツ「理解できたか?」そう言い放った後厳しい表情で「今楽にしてやる」彼のほうへ向かった。

「ぐ・・う・・・」

「殺(と)る!」自分に対する決意としてヴァッツは呟く。
ヴァッツは右腕の刃状の水をマークの首に振り下ろした瞬間・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!

地鳴りが鳴った。この近辺では最近地震が頻発していた。震度5はあったろうか?

ヴァッツの体は、よろめき攻撃は不発に終わる。


「う・・・・・・」苦しそうにしているマーク・・・が、次の瞬間


「グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

マークの体を中心に巨大な炎の柱があがった。それと同時にマークの意識は消し飛んだ。

半径5m、上方向には30mはあろうかという炎の柱・・・ヴァッツは思わず遠のいてしまう。


ヘイジ「これほどとは・・・」「仕方ねぇ!」そういうと彼は抱えていた包みを解こうとする。
しかしナガレがそれを制止する。
ヘイジ「いくらなんでも!」怒りをあらわにするが
ナガレ「必要ない。」「結界内で十分に収まっている・・・予想されていた覚醒レベルにすら達していない」
ヘイジは舌打ちをしたあと我慢することを決めた。

ナガレ(どうゆうことだ?一体何が・・・・)


巨大な火柱が収まるとマークはほとんど魔物のような状態になっていた。

ヴァッツはかえって安心した「人を殺すよりは、気分が楽だ」自嘲気味につぶやいた。
あらためて攻撃をしようとしたそのとき・・・

マークだった魔物は両手に炎の塊を生み出した。だがヴァッツに対して攻撃する素振りは見せていなかった。

この場にいる誰もが理解しえない行動。

マークはゆっくりと後ろを振り向く。

ナガレとヘイジが気づく。自分たちのほうではないことは分かっていた。

ヴァッツ「ま、まさか・・・」


両方の拳は、磔にされたされたジャックのほうを向いた。
「や、やめろーーーーーーーーーー」

とにかくやめさせたい一心でヴァッツはタックルをかける。

二人が倒れると同時に拳から火球が放たれる。


幸い火球は軌道がそれジャックを包む氷に当たることなく結界の壁にぶつかって消えた。

「お、おまえはーーーーー」起き上がりながらヴァッツが激しい感情で叫ぶ。

そのとき





「シャァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!」





ジャックを包んでいた氷が割れ中から魔物が飛び出してきた。


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今回のイメージイラストその1 今回のイメージイラストその2

〜続く〜


第三話


「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

落下と共に聞こえたマークの叫び声。それはそれで気にはしていたのだが、
マークが手にしようとしていたものが何なのかジャックは気になっていた。

幸いにもマークは無傷だったようで平気な顔をして笑っている。それと同時に真樹と七瀬に
こっぴどく叱られている様子を見て安心したジャックは鳥居のようなものの
下の茂みを覗ってみた。

かすかに何かが見えていた。野生児のマークとは違い都会育ち(といっても「ここよりは」という程度だが)の
ジャックはあまり気が進まなかった。

それでも折角ここまで来たのだし、何より新しく友達になってくれた彼らの前で何かをしたいという思いがジャックの
手を「それ」へと伸ばさせた。

あまり地べたに這い蹲るような真似をしたくなかったので、ジャックはあまりにも不自然で不恰好なポーズをとってしまう。

それを見たマーク達は思わず笑ってしまった。

今までのジャックにしたらそれは悪意であり嫌なものでしかなかった。しかし「彼らは違う」子供ながらにそれを感じていた。

「無邪気」その言葉がぴったりだろう。むしろ好意という態度で彼らはジャックに近づいてきた。

マーク「ひょっとして落ちたのかな?」「なんか見つかった?」

手を伸ばしながらジャックが言う「この辺・・だと・・・・思ったけど」 「痛っ!」

鋭い雑草で指先を切ってしまったようだった。

マークが「ちょっとどいてな!」とおもむろに頭から突っ込んでいく。

「なんも無いなぁ」とごそごそと探し回っている。頭だけが茂みの中にありお尻をこっちに向けて一人で喋っているマークに
ジャックは笑いがこみ上げてきた。他の2人もつられて笑ってしまう。

結局何も見つからないまま皆は引き上げることにした。



この日この時、この場所はジャックにとっても大切な場所となる。







「ゆ、夢?」「今日は何曜日だろ?」

思考が追いついてない。


「こ、ここはどこだ?」

虚空の闇・・・そう表現するのが正しいかもしれない。
ジャックの周りは闇があるだけだった。
浮遊感のようなものはある。しかし立っているのか、それとも寝そべっているのかも分からない。

「お目覚めかい?」

頭の上のほうで声がする。
それはこの闇の中でハッキリと存在を感じる。そして確実に「いる」のである。

ジャック「お前は誰だ?」




第3話 「Under Pressure」




「な・・・なんだ!!!」
ヴァッツは驚愕していた。足元に倒れているマークは動く気配を見せないのは幸運だった。

ヴァッツは思考を張り巡らせた。
「魔物が出てきたのは、ジャックを閉じ込めた巨木」「氷は破壊されている」「魔力なしでは破壊不可」
「あれは魔物」「氷の下にいたのは間違いなくジャック」 「つまりアレは・・・」




ナガレ「魔核だ!」

ここまで冷静に観察していたナガレに初めて焦りが見える。
ヘイジは冷静ではいられなかった。
ヘイジ「コアだって?!!」「ターゲットはあのマークって小僧一人のはずだ!・・なんでっ!!・・」

少し落ち着きを取り戻したナガレが言う
「あれが闇の魔核ならばありえん話ではない。」「当時の状況を考えれば・・・」

あくまで冷静なナガレの話をヘイジは聞く気がなかった。我慢できずに飛び出そうとするが
ナガレはそれでも制止する。

ヘイジ「なんで駄目なんだっ!」「もうヤバイだろ!」
ナガレ「アレが覚醒だとするなら、これも予定されたレベルには達していない。」

「それに・・・」「−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−」

一瞬の沈黙の後
そうか・・・仕方が無い。そんな表情でヘイジは気を落ち着かせた。






獄炎の中マークはうつ伏せになって苦しんでいた。
ここが肉体とは別の場所であることはマークには分かっていた。

「死んであの世ってワケじゃ無さそうだな」

自分はここにいるが今の自分は「精神的な存在でしかない・・・」そんなことを直感で悟っていた。

周りは全て炎。その炎は自分を焼くかの如く轟々とうねっている。そして自分に向かう炎と共に暗く、重い感情が伝わってくる。

憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!憎!

呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!

その重い感情はマークを押しつぶそうとしていた。

普通の人間なら飲み込まれていたであろうその負の感情の連鎖と炎の中。



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それでもマークは諦めない。

うつ伏せからゆっくりと膝を立て!

「死んでたまるかよ!」

力を込めて!

「この場所で!」

立ち上がる!

「ワケもわからずに!」

マークはこの状況の中あえて胸を張った。

マークを取り巻く炎が少しずつ離れていく。

「そして何より・・・」

炎はさらにマークを避ける。

「何より・・・」

炎の中から一筋の光が漏れ出す!!!!!

「何よりもっっっっっ!!!!!!!!」

「お前に会うまで死ねるかーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!」


光の中 真樹のヴィジョンが映し出される。

その光はさらに大きく広がり

炎をすべてマークの後方へと追いやってしまった。


光はまるで映画のスクリーンのようになる。

そこにはマークの「肉体の視界」が映っていた。

ヴァッツと対峙しているのがわかる。

そこにある現実の視界を目にしてマークは思い出す。

「!? ジャックを助けなきゃ・・・」

どうやったら良いのかなんて分かるはずは無かった。

ただジャックを何とかしければいけない。
その想いだけがマークの感情の全てとなったとき・・・

肉体はそれに呼応した。

両の手に火球を生み
ジャックを縛る氷へと投げつける。




ヴァッツがそれを止める。

まるでテレビに向かって野次るように「バカヤロー!邪魔すんじゃねぇ!」とマークは叫んだ。



冷静に考えてマークのとった行動が正しいなどという保証は無い。
しかし自分の道を貫き通す。 これがマークという男だ。






氷を振りほどいたバケモノがヴァッツのほうを見ている。

闇の塊・・・それが人だった面影は無い。



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ある場所の廊下で会話をするナガレとヘイジ

それを盗み聞きしているヴァッツ

ヘイジ「このマークってのがコアの持ち主?まだガキじゃねーか」
ナガレ「ヴァッツを拾ったときはもっと子供だったがな・・・・」

ヘイジ「にしてもどーすんだ?今まで接触してきたターゲットとはまるで状況が違う。」
   「それに安定もしてるし社会的な環境もいたって極普通・・・」

ナガレ「一応シンとも相談してみるか」




ある部屋

ヴァッツ「チヅル・・・今回の件俺が適任だと思うが・・・」

チヅル「そうね・・・そうかも知れない。」
   「でも・・・何を考えているの?」


「・・・・・・・・・・・」


チヅル「わかった何も聞かない。手配しておくわ」

ヴァッツ「ありがとう・・・」

チヅル「ひとつお姉さんからのお願いを聞いてくれるかしら?」

ヴァッツ「?」

チヅル「学校を楽しんできてちょうだい」

ヴァッツ「・・・・・・・・・」


---------------------------------------------------------------



闇の塊としか言いようの無いバケモノと対峙しながらヴァッツは呟く


「想定外だ」






「お前は誰だ?」
そこにいる何かに問いかける。
体は動かなかった。目もぼんやりしている。
「誰なんだ?」

???「誰だっていいさ。」「それより何でお前はそうしている?」

「・・・?・・・・?あいつが・・・マークを 殺・・・」
「それで・・・助けを・・・そしたら・・・こ・・氷・・??・・!!!」

???「そうだったなぁ・・・あいつお前を・・・」

そこにいる何かの声とジャックの心の声が重なる

「殺した!」

ジャックは意識がハッキリしているわけではない。それでもヴァッツが自身を殺したという状況認識だけは
強く残った。

闇の中にいる何かが手をかざした。そうしているというワケではなく、なんとなくそうした気がした。

ジャックの前にぼやけた視界が映る。

???「見えるか?あいつだ・・・あいつがお前を殺した」

そのヴィジョンにはヴァッツが映っていた。そして

「マーク!」

変わり果てた友の姿がそこにあった。だけどあれはマークだ。でも何故・・・

ジャックは状況を知らない。覚醒が起きたことも知らない。

だからたった一つの情報で真実は捻じ曲げられる。

???「ヴァッツだけじゃないぜ。マークもお前を殺したいらしい」

その言葉はジャックの心に深い傷をつける。
なぜなら敵ばかりだったそれまでの人生を大きく変えたのはマークだったから・・・
そしてそのマークすら今は敵・・・


殺された身に殺すという表現・・・しかし何が正しいかなど考える余裕などなかった。

間違いなくマークは攻撃してきたのだから・・・

両手から火球を放って・・・


???「助かったな・・・」

ジャックは・・・いやジャックの「心」は何も答えることが出来ない。

目に見えない何かが・・・いや「ヤツ」が囁く

「俺を解放しろ!」






ヴァッツのタックルによってマークは自身の肉体のコントロールを再び失っていた。
しかし彼のヴィジョンは失われていない。
そしてジャックに気づくと同時にあせり始める。
「ひょっとしてアレはジャックなのか!?」

「このままだとまずい!」





なぜマークの肉体が動かなくなったのかは分からなかったが、そのおかげでヴァッツは、
ジャックに集中できた。

ヴァッツ(コア・・・なのか?・・・覚醒・・・だとしたら・・・)(ブレードの間合いに入り次第斬るしかない)

ジャックとの距離はまだある。

近づく気配が無いと思ったが・・・

ジャックは左腕を天にかざすとその腕を膨張させた。
その腕を振り下ろすとさらに太く伸びてくる。


ヴァッツではなくマークめがけて!!


マークの頭上に手がさしかかったその時!!!!











「頼むからやめてくれ・・・」





ヴァッツは攻撃の「手」からマークを守った。




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今回のイメージイラスト 今回のボツイラスト

〜続く〜


第四話



マークは見た。

動かぬ己の体に攻撃を加える手を・・・

マークは見た。

動かぬ己の体を救う手を・・・



この日

長く長く止まっていた時が動き出す

そして全ての歯車が動き出す

マーク、ジャック、ヴァッツ・・・

彼ら個人の意思とは無関係に・・・



第4話「If You Can't Beat Them」



ナガレとヘイジは、ふっと息をついた。それは安堵感からではない。
ヴァッツの行動に対して「やはりそうなったか」と、そんな気持ちで・・・

「頼むからやめてくれ!」

しかしジャックの攻撃は緩まなかった。
左手の回収もしないまま今度は右の手を伸ばし攻撃してくる。
ヴァッツとその後ろにいるマークを直線状に捕らえて!

「!」

ヴァッツはこの攻撃をかわすしかなかった。
伸びた左手を払いのけ素早く右側へ回避する。
このとき(しまった!)と彼は思った。

当然のように右手の攻撃はマークを直撃する!

爆発が起きた!!



爆発



炎上




炎と

大量の水の中

泣き叫ぶ子供がいる

ヴァッツの古い記憶

決して戻ることの無い日

決して消すことの出来ない記憶


ヴァッツは決して感情の無い人間ではない。
自分という存在・・・その後ろに己の感情を追いやった人間だ。

しかし今の彼は感情が先にたつ。

「やめろーーーっ!!」

爆発の煙とでもいうのか?もやのようなもののせいでマークの姿は確認できない。
だからせめてジャックだけでも、という気持ちで彼はその攻撃意思をジャックへと向ける。

ジャックはそれに気付き、両の手を元の状態に戻し臨戦態勢へとはいる。

だがその瞬間!今度は、煙の中から炎のうねりが飛び出してきた!

ヴァッツは、ジャックにタックルをかけ倒すと同時にその向こうにある木の上へと移動した。

炎は結界の壁へと当たりはじける!ジャックとヴァッツは無傷で済んだ。

「グオォォォォォォォォ」
煙が晴れると同時にマークがその姿を現し雄たけびをあげる。

「シャァァァァァァァァ」
呼応するようにジャックも雄たけびをあげた!
ヴァッツの姿を見失っていたジャックは、マークを標的に定める。

マークは炎の塊を、ジャックは闇の塊を、
互いにそれぞれぶつけ合っていった。


ヴァッツはそれを木の上から見ている。




覚醒初動!

すべてが


すべてが

無に還る









なにもつかめなかった幼い手

「や、」

廃墟と化した周囲

「や、」

消し飛んでしまった家族

「や、」

記憶がフィードバックする。

「やめろーーーーーっ!!」

感情がはじける!
ヴァッツは抑えられなかった。
もう抑えることは出来ないだろう。

彼がここに来た目的は・・・




ヴァッツは空中へと舞うと同時に少しだけ冷静になる。

それは彼が戦闘態勢に入っている証拠だった。

「氷花繚乱」

そう呟くと周囲に無数の氷の花が咲き乱れる。

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日の光に反射し美しく煌めいている。

その美しさはこの状況の中で不気味なものだった。

マークとジャックが普通の状態であったならばその美しさに心を奪われただろう。

だが今の彼らは、まるで獣のようにそして本能であるかのように互いを攻撃しているだけだ。


「散!」

そう呟くと花びらの一枚一枚が刃となり直線状に地上の2人へと襲い掛かる!

「グァァァァァァァァァァ!!!!!」

2人は攻撃を受けるがそれでも止まらない。

着地と同時にヴァッツは左腕に冷気を集める。

「アイスブレード!」

氷の刃である。その形は右腕のアクアブレードとは逆に手の先に向かって刃が伸びている。

形勢的にジャックのほうが有利であると瞬時に判断したヴァッツは
「とりあえず」と言い彼の左腕を斬り落とした。

ジャックは叫びその場に崩れる。
そうなれば今度はマークがジャックに襲い掛かる。

ヴァッツは右手の指先に冷気を集める。
「アイスブリット!」
指先を広げると氷の弾が飛び出しマークを襲う!

「頼むから!頼むから止まってくれ!」

言葉が意味を持つとは思えない状況
それでもヴァッツは言う。
悲痛ともいうべき表情を浮かべ彼は言う。
全ての想いを込めて・・・




「その力で大切なものを・・・失わないでくれっ!」





それを見ていたナガレとヘイジにも過去の記憶が蘇る。


マンションがあったはずの一区画。
周囲は瓦礫・・・炎が上がりサイレンの音がこだまする。
その中に一人の子供が泣き叫んでいる。

ヘイジ「まさか・・・こんな子供が」
ナガレ「間違いないな・・・」「・・・・・・・」

「これが覚醒の証だ・・・」
辺りを見回す。
まるで戦争でもあったかのような光景。
空は爆炎で真っ黒になっていた。
その空を見上げてナガレはふと思った・・・

だがそれを口にすることは無かった。



ナガレ「あれから12年か・・・」




マークはまだ精神世界にいた。

ジャックの姿も確認し余計にマークはあせった。
「なんとかしねーと・・・せめて俺だけでも!」

アイスブリットを喰らったマークが叫ぶ
「バカヤロー!痛てーじゃねーか!」

「ん?」

気付き始める

「なんで痛いんだ?」「ひょっとしてさっきよりも体に近いてんのか俺?」

勘・・・というよりは本能。
マークは段々となんとかなる気がしてきた。
具体的な策は何一つ無いにも関わらず・・・

ここでヴァッツの叫びがハッキリと聞こえた。

「その力で大切なものを・・・失わないでくれっ!」



「・・・あいつ・・・」

瞬間驚き戸惑いはしたが・・・

マークは口元に笑みを浮かべた。

遠ざかった炎はまた近くに来ていた。
だがその向こうの視界は失われたわけではない。

スクリーンのように見えている視界は肉体の視界・・・

「それなら!あそこまで行けばいいだけじゃねーかっ!」

目の前の炎の向こうへとマークは走り出す

光は段々と大きくなり・・・


やがてマークの体と意識は一つになった。





ジャックが腕を再生していた。
ヴァッツはどう止めていいのかもう分からなかった。
言葉も尽くした。
魔体の再生は止まることを知らない。
攻撃を続けることに意味があるのか分からなくなっていたとき

声がした。


「あとでちゃんと説明しろよ!」

先ほどのまでの魔物のような状態と人のような状態の中間とでもいう姿となったマーク。

「・・・」

ヴァッツは一瞬空っぽになってしまった。

何かを言おうとしたが、マークはそのときにはもう走り出していた。

マーク「オラ!さっさと目を覚ましやがれぇ!」
ジャックへと殴りかかる!




ヘイジ「あんたの言うとおりだったな。」「あいつら自身の力か・・・」

ナガレ(しかし・・・それはお前も乗り越えなければいけない壁だぞ!ヴァッツ・・・)


マークに殴られたジャックは怯むことなく闇の塊を飛ばし、また攻撃をしかけてくる!
マークは攻撃をかわすという思考が無い。
何も考えずに突っ込んだせいでモロに攻撃を喰らう位置にいた



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「危ない!」

ヴァッツは左腕のブレードでジャックの攻撃を弾きマークのピンチを救った。

魔物のような顔となりつつもニヤニヤしながらマークは言う。
「どういうつもりだ?」

「・・・・」
「とりあえずアレをなんとかするのが先じゃないか?」

互いの目を見る。
そこには信頼できる確たるものがあった。

「んじゃぁいくか!」
「あぁ!」
2人はぴったりの呼吸でジャックへと向かう!

マークの脳裏に七瀬の一言がよぎった

「マークは誰とでも仲良くなっちゃう」

「うるせーよ」かすかに微笑みながら小さく呟いた。

マークの体は不安定な状態だった。
だが拳の炎は消えることは無く燃え続けている。
もしそうじゃなかったとしてもこの男は戦う道を選んだであろう。

マークが正面から攻撃をしかけると、ヴァッツは背後から下段を攻撃する。
2人は息の合ったコンビネーションでジャックを翻弄していた。

「でぇ?具体的にどうしたらいいんだ?」マークはヴァッツに問う。

「とりあえずこの魔力を消耗させるしかないか」
「あとは・・・」
ヴァッツは言葉につまる
そのとき
単純な疑問を置き去りにしていたことに気付いた。

「お前はどうやって元にもどったんだ?」


マークは答えない。
ただ単に説明が苦手だったこともある。
それ以上に早くこの状況をなんとかするために思考を張り巡らせたことが原因だ。

マークにとってプロセスはどうでもよかった。
だから答えしか言わない。

結論は出た。

「やっぱ心に訴えるしかねーな!」

マークは拳を強く握った。





遠くで声が聞こえる

その声は少しずつ

ハッキリと

聞き取れるようになっていく

「なんでだ!」
「どいつもこいつも!」
「皆敵だ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


ジャックはぼんやりとした目の向こうで必死に何かと闘っている「ヤツ」を見る

その向こうにはマークとヴァッツがこちらに攻撃をしかけているのが見えた。

一瞬ドキッとした。

しかしさっきまでと違い今は心の中が落ち着いている。足も地に着いてる感覚がある
元々クールな正確の持ち主である彼は冷静に今の状況を判断する。

「目を覚ませ!」
「力に意識を奪われるな!」

2人の声が届く

(なんとかしないとな・・・・)



マークは叫ぶ
「ジャックーー!!見えているか!」
「見えてんならそこに意識をぶつけろーーーっ!」


ジャックの世界にもスクリーンは出来ていた。
だがその前に「ヤツ」がいる。

ジャックはスクリーンに飛び込もうと走り出すが、「ヤツ」はそれに気付く!

「ヤツ」は言う
「やめろ!行くな!」と
「ヤツ」は体を蛇のように変えジャックの体をしばりつける。

「ヤツ」がジャックに集中したせいか・・・


ヴァッツ「ジャックの動きが完全に止まった!」

マーク「今しかねーな!」

マークは右の拳に全ての力を集める!!!!!

「ちょっと熱いかも知んねーケド、我慢しろよぉ!!」



マークは全力でジャックを撃った。



img016
今回のボツイラスト

〜続く〜


第五話



「ちょっと熱いかも知んねーケド、我慢しろよぉ!!」

マークは全力で右の拳を打ち込もうとする。


ジャックの世界の中で「ヤツ」は恐怖していた。

「や、やめろー!」「お、俺に敵対するな!」 「な、なんとかしろぉ!」


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ジャックはスクリーンを見ながら微笑む

「信じてるぜ」



















第5話「開放」


マークの放った一撃は爆発を生む。


ヴァッツはただ見ているだけだった。
自分が引き起こしてしまった今の事態に対して何も出来ることはなかった。
ただ2人の命があることだけを強く祈っていた。



そして煙が晴れたとき

そこには2人の姿があった。

マークもジャックも半分魔物のような姿で。


マークはそっと息を吐く。
そして確信してはいたがどこか不安げに
「生きてるか?」と問う。

ジャックはあえて言葉を出さなかった。
ただ僅かに微笑む。
それはマークに対する信頼の表われであった。


命を懸けた戦いだった。全てが終わっていたかもしれなかった。

しかし2人は笑う。

その緊張から解かれただけで2人は安堵していた。

「なぁ・・・この姿どうしよう・・・」ジャックはマークを見ながら笑っている。

「たしかにこのままじゃなぁ・・・」マークは返すが笑ってしまう。

先ほどまでの極限の関係から開放された感覚は、どこか「普通」を置き去りにしていた。

「お前ならなんか分かるんじゃねーか?」「ヴァッツ?」マークは呼ぶ。

自分の時には無かった現象にうろたえてしまうヴァッツ。

「とりあえず・・・」とヴァッツが言おうとしたとき・・・

そこに
「ようやく終わったな・・・」
ナガレが喋りながら入ってきた。

「なんにしてもお前さんたちはよく頑張ったよ。」ヘイジも来る。

「な!なんだあのジジィ!顔の半分が化けモンだぜ!」マークは初めて見るその姿に驚きを隠さない。
普通の人間ならそこは少し戸惑うところだが、この男にはデリカシーが些か欠けているようだ。

「いや、そりゃお互い様なんじゃねーか?」
すかさずジャックが突っ込む
それもそうかと2人は思わず声を出して笑った。

ヴァッツ「ナガレ、ヘイジいつから・・・」

ヘイジ「戦闘中は周囲に気を配れ」「そう教えたはずだがな」優しく微笑みながらヴァッツの頭に手を乗せる。

マーク「?」「なんだ知り合いなのか?」
状況から判断できることではあるがマークは純粋にそういった言葉を出した。
だがジャックは違った。マークとは違いヴァッツに対する不信感は解けていない。
ましてやようやく開放された状況の中で知らない顔がまた出てきた。
だから彼は気を許さずに構えて聞く。

ジャック「なんか知ってるのか?」
全ての思いはその言葉に集約された。

しかしマークはまったく空気を読まず続ける
マーク「オッサン達ヴァッツと知り合いなら、この状況分か・・・」

マークがそう言いかけたとき体の中心部が苦しくなった。同時にジャックもうずくまる。

「!」

ナガレ「ヴァッツ!凍結だ!最大で構わん!」
ヴァッツ「何?」「どういうつもりだ!この2人は」
言葉をさえぎるようにナガレは言う
ナガレ「いいから早くやれ!全魔力でだ!」
さらに声を張り上げてナガレは叫ぶ
ナガレ「あの時と同じになるぞ!」

この時この場にいた3人は同じヴィジョンが脳内に流れていた。
ヴァッツの覚醒時

ナガレ「ヘイジ「壁」の用意を!今の外側に最大でだ!」
ナガレ「ヴァッツ早くしろ!手遅れになる!ワシは鏡面結界を作る!」

ヴァッツは一瞬ためらったが右手に冷気を集めると先ほどジャックにそうしたように二人を氷付けにする。

ナガレ「お前も退避しろ!来るぞ!!!」



2人を中心に巨大な爆発が起こった。


近くの木陰に隠れる三人。
ヘイジは一番前で結界の壁を作っていた。

凄まじいエネルギーの嵐

ヘイジ「う、うぉぉぉぉぉ!!!!!」
ナガレ「やはりこうなったか・・・」

爆発を目の当たりにしてヴァッツの心が揺れる。

「そ・・・んな・・・・・」


ヴァッツはうつむき
「こんなことになるなんて・・」と呟いた。
ナガレはまっすぐ前を向いたままヴァッツの肩に手をかけ言う
「まだ終わってないぞ」



爆発がやむとすぐさま3人は彼らの元へとやってきた。
マークとジャックは元の人間の姿に戻り倒れていた。


ヴァッツ「生きているのか?」最大の過ちを犯したのではないかと気をもむ。

マーク「勝手に殺すなよ!」頭を擦り起き上がりながら言う。
ジャックも意識を取り戻す「でも殺しに来たんじゃなかったっけ?」
不信そうに言う

ヴァッツ「それは・・・」言葉に詰まる。

「その前にいいかな?」ナガレが割って入る。

ナガレ「はじめましてと言うべきかな。ワシはナガレ。こっちはヘイジだ。」

マーク「で?」

ナガレ「君達の身に起こったことを簡単に話す。」

ジャックは真面目に聞こうとしていたが、マークはどうでも良い様子だった。
肝心な話のときはいつもこうだ。
話の本筋をまとめてマークに話す。
いつしかそんな役割になっていた自分をどこかくすぐったく思うジャック・・
「俺が聞くよ・・・」
仕方が無いといった表情で答えた。

ナガレ 「どうやって手にしたか詳しい話は後で聞くが、君たちの中には魔核・・・
    最近ではコアとも呼ばれるものがある。」

    「いわゆる悪魔の力だ」

こうなると共通点はアレしかなかった。

ナガレ 「今日起きたのはその力の覚醒・・・」

ヘイジ 「俺たちが予想してたのはマークだけだったんだがな・・・」

ジャック「・・・・・・・」

ジャック「で?ヴァッツを含めたアンタ達は何者なんだ?」

ナガレ 「君達の持つその魔核を捜し続けてきた機関・・・」

マーク 「捜し続けてきた???」

ナガレ 「そうだ」

    「有史以来世界各地に語り継がれる超常的な力・・・人智を超えた力。」
    「今から数百年前、その力を巡ってある事件がこの国で起きた。」
    「一国をも滅ぼす力として魔核が確認された事件だ」

    「そのとき行方不明になった魔核・・・」
    「そしてその捜索機関として我々の組織が出来た。」
    「組織名を鳳龍会という。」

    「我々はその一員だ」

マーク 「ほうりゅうかい?」

ナガレ 「名称に関しては気にしなくていい。」

ジャック「て、ことはアンタらは国の依頼で俺たちを・・・?」

ナガレ 「いや我々は実際この国からすら外れた存在だ。」「・・・この国のために・・・」

ヘイジ 「詳しいことはいずれ話すことになる。それと今後のことだが・・・」

ナガレ 「連絡はついたのか?」
ヘイジ 「あぁ・・・いまチヅルが対応に当たっている。」
    「すまんがヴァッツ、夜まで時間を潰してくれ!出来うる限りのことはするから・・・」

それを聞いたヴァッツは膝をついてしまった。
マークとジャックは顔をあわせる「?」

ナガレ「とりあえずはここまでだな。本部への報告もある。」
ヘイジ「ヴァッツ!ちゃんと説明するんだぞ!」

ナガレとヘイジはその場から消えた。


ヴァッツ「すまない・・・本当にすまない・・・」
彼は泣きながら言う。

マーク 「お、おいおい!」
ジャック「一つ聞くけど、お前もそのコアの持ち主の一人なんだな?」
涙を拭いながら「ああ」とヴァッツは答える。

ヴァッツ「12年ほど前のことだ。」

ヴァッツ「俺がどうしてコアを手にしたかは分からない。」
    「ただ・・・覚醒が起きた・・・・周囲を破壊しすべては瓦礫」

    「・・・・一緒にいた家族は跡形も無く消え去った。」


    「・・・・・・・・」


ヴァッツ「だから・・・俺のような思いはしてほしくなくて・・・」
    「そうなるくらいなら・・いっそ消してやったほうが・・・そう思った。」
    「覚醒がいつ起こるかなんてわからない。お前は、いやお前たちはわけも分からないまま
     大切な人たちをその手で殺すハメになってもいいのか?」


2人は答えることが出来ない。
大切な人・・・その言葉はそれぞれに大切な人を思い浮かべさせる。



ヴァッツ「それに・・・幼かったせいもあるが、家族を失ったことが原因で感情が揺れまくった俺は鳳龍会に
     保護されたあとも力の解放が何度も起こった。」

マーク 「それで?」

ヴァッツ「同じことが起きることを懸念して鳳龍会はコアの持ち主が見つかった場合家族と引き離すことを決定している」


そしてヴァッツはゆっくりと重い口調で言う


    「最悪の場合・・・家族を消すことも視野に入れて・・・」


驚愕する2人
ジャック「な、なんで!なんで!そんなことまで・・・」

ヴァッツ「暴発する原因を取り除くため・・・」

マーク「それって矛盾してねーか?」

ヴァッツ「自分の力で失ってしまうのと人知れず消されてしまうのでは意味が違ってくる・・・」

ヴァッツ「ただ・・あの2人は、このことには反対してたから・・・それは無いはずなんだ。」

2人は安堵のため息をついた。

ヴァッツの心は2人に惹かれていた。
しかし自分は決してこの2人に近い存在になれないとも思っていた。
今あるこの時間を大切にしたいという想い・・・
そして彼らの日常を破壊した罪の意識・・・

それらが混ざり合い言葉が出なくなっていた。




マーク 「どうした?」

黙っていたヴァッツはまた口を開く

ヴァッツ「正直に言えばお前たちを組織の管理化には置きたくない」
    「鳳龍会には人に見せられない一面もあるしな。」「嫌になるくらいに」
    「俺も何度も実験体にされた」

言葉少なく言う彼の感情は、憎悪と言うよりは悲哀に満ちていた。
その感情のせいで、本来なら2人には忠告の意味で投げかけた言葉が届かなくなってしまう。

ヴァッツ「なんにせよ家族と引き離すことは決定はしている。」
    「すぐに理解しろとは言えない。」

    「ただ・・・・・・・自分たちの持っている力のことも考えてくれ・・・・」
 
マーク 「・・・・・・・・」
    「まぁ大体わかったよ。」

ジャック「なんか実感がわかねーなぁ・・・そんなこと言われても・・・」
    「どう・・・なるんだか・・・」

2人は考えることすら出来ないでいた。
突然のことすぎた。


ふぃぃぃぃっと
情けない声でマークが仰向けに倒れる。ジャックも同じことをした。
マーク「とにかく色々ありすぎて疲れたなぁ」

ヴァッツ「とりあえず連絡があるまで・・・」
そう言いかけたとき、マークが何かに気付いた

マーク「なぁ?あれなんか変じゃないか?」

マークは仰向けになったまま空を見上げている。
夕暮れ。空はオレンジ色になりつつあった。
その空の一部が歪んでいる。
3人から少し離れた位置。

ヴァッツ「!・・・空間が歪んでいる!」

その歪んだ空間から黒い塊がぽとりと落ちた。
塊はすぐに一つの形になる。

ヴァッツ「!!!!」


    「魔物だ!」

「ギギ!」と鳴き声のようなものを出してすぐさま街のほうへと向かった。


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マーク「おい!アレまずいんじゃねーのか!」
ジャックが叫ぶ!「早く追うぞ!学校には・・・学校にはまだ七瀬が残っているはずだ!」

3人は走り出した。しかし魔物は予想以上に素早く追いつけない。

マーク「ヴァッツ!さっきの飛び道具使えないのか?」
ヴァッツ「すまない・・・今は無理だ!」

隠していたがヴァッツは2人を抑える時に全力を使い果たしていた。
そしてそれは追いついたところで何も出来ないことを意味していた。




七瀬「あぁ〜んもう!なんで会議が終わった直後に地震なんて起こるかなぁ!」
書類がバラバラになった教室で一人憤慨している。
七瀬「シゲちゃん達は帰っちゃったし、先生は会議だし・・・」「もういやぁ〜」




マーク 「あの魔物って一体なんだ?」
ヴァッツ「異界の生物とでも言うべきか・・・」
    「俺たちの任務にはアレの殲滅も含まれている」
全員全力で走っている

ジャック「生物って・・・生き物殺すのかよ!」
ヴァッツ「生き物って概念じゃ無いんだ・・・」
マーク 「なんだ?」真剣な顔つきになる
ヴァッツ「半分実体が無いんだ!・・・だから魔力で消滅させるしかない」
マーク 「話し合いは・・・・って無理か?」
ヴァッツ「アレに知性があるように見えるのか?!」
    「しかも本能なのか人を襲う」

それを聞いたジャックはヴァッツの言葉を思い出す

「大切な人」を失う

七瀬の顔が脳裏をよぎる


マーク「じゃぁ余計に急がないと!」
全員さらにスピードを上げた。






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歪んだ空間を見上げる影がある。


???「あ〜あ〜あいつら」「これ放置していくかねぇ」





今回の1ページ目(富樫風) 今回のイメージイラスト

〜続く〜


第六話


???「よっと!」「これで終わり!」

???「これってボクの仕事かねぇ?」

そう言うと歪んだ空間は元に戻る。


???「さて・・・」


第六話 Hard Day and Night(前編)



ガシャーン!と窓が割れる音を七瀬は聞いた。

「へ?何?」七瀬は驚き窓を見る。
グラウンドを見てみるが部活の生徒たちはもういない。

「どこのガラスが割れたんだろう?」
グラウンドに目をやり、そこから見える窓ガラスを
全部見てみるが割れた様子はなかった。

「じゃぁ・・・表側のほうなのかな?」

なんにしても先生たちに報告をしなければならないなと思い直し
七瀬は職員室へと向かう。

職員室のドアは壊れていた。それが何を意味するか彼女には分かるはずもない。

「なんかあったんですか?」
そう言って中に入ったとき・・・・

血まみれの担任の姿がそこにあった。


七瀬の悲鳴が校内に響き渡る。




マーク「ようやく学校までたどり着いたワケだが・・・」

ヴァッツ「校舎にいるとは限らない・・・街に出たとなると厄介だな」

ジャック「いや・・アレを見ろ!」

ジャックが指をさした位置は校舎の2階。窓ガラスが割れていた。

時間的にはもう正面玄関は鍵がかかっている。職員玄関は校舎の裏口にあたり
階段からは遠くなってしまう。

ジャックは頭の中でそんなことを考えていたが・・・
同時に七瀬の悲鳴が聞こえた。

「!」

ヴァッツ「ビンゴか・・・」

マーク「迷ってる暇はねーぜ!」

ジャック「でも玄関はもう開いてないぞ!」

マークは自信に満ちた顔で言う
「飛べばいい!」

ジャック「無茶言うな!それよりも職員玄関側の非常階段を使って・・・」

マークの言葉が遮る
「俺たちもお前と同じなんだろ?」
ヴァッツの目をみて確信しながら言う

ヴァッツはその言葉の意味をすぐに理解した。そして
「ついて来い!」
そう言うと彼は校門の外壁から割れた2階の窓へと飛び込んだ。

「行くぜ!ジャック」 マークはすぐにヴァッツのあとに続く
ジャックは思考を停止しかけたが、もはや状況はそれを許さない。
2度目の七瀬の悲鳴が聞こえたからだ。

「ちくしょう!」
ジャックが発したその言葉にはいろんな意味が込められていた。





隣県の山奥にある古い建物
この山は一般的には私有地とされ人が近づくことはできない。
それでもそういった場所に入り込もうとする人間は必ずいるのだが
ここには結界が張られているため建物に気付く人間はいない。

その建物の一室

ナガレ「入るぞ」
ノックと同時にドアを開ける

ナガレ「シン・・・貴様がそこにいるということはブンゴは不在か・・・」

シンと呼ばれるオールバックで長髪の男がいる。彼は椅子に腰を掛けたまま応える。

シン 「ええ・・・それよりも先ほど強い力の放出を感知しましたが・・・」

ナガレ「覚醒を確認した」

シン 「遂に・・・ですか・・・それでどれでしたか?」

ふっと息を吐き一呼吸おいてナガレは言った。

ナガレ「炎と闇・・・二つだ」

それを聞いたシンは目を点にする
シン 「二つも・・・ですか・・・ターゲットのマーク君とやらがまさか・・・」

ナガレ「いや側にいた友人がもう一つのほう・・・闇のコアを有していた」

シン 「その子は兆候は無かったんですか?」

ナガレ「ああ・・・あっちのリストアップには入っているが、それも無視していいレベルだった」

シン 「しかし何故・・・」

ナガレ「当時の状況を考えれば不思議な話ではない。入手経緯等はあとから聞き出すとして・・・」

シン 「ご家族へは・・・」

ナガレ「チヅルが交渉にあたっている。」「それとその他の手配もな・・・」




窓から入った3人はすぐに目の前の職員室の異変に気付く。

マーク「ここか!七瀬ーーーっ無事かーーーー」

叫ぶと同時に職員室へと入り込む

七瀬とは逆の入り口から入った3人は魔物を挟んで向き合う形となった。

魔物は職員室の中央でまるで品定めをするかのように教師たちを眺めていた。

七瀬の無事を確認した3人は同時に担任の姿も確認することになる。

「!!」

ヴァッツが「手遅れだったか」と呟く
その言葉を聞いた七瀬が「まだ息はしてるの」と返した。
状況に混乱する男性教諭たちに比べて多少は冷静なようだ。
やはりこうゆうときは女性のほうが精神耐性があるらしい。

マークが「てめぇぇぇぇ!!!」と言って殴りかかるが魔物は身軽にジャンプしてかわす。

ヴァッツがいさめる
「魔力なしでは対応できない!組織の人間が来るまでなんとか皆を避難させよう」

ジャックもそれが懸命だと判断した。

しかしマークはそれを否定する。
「それでアイツはその間どうするんだ?じっとしてくれんのかよ!!」

マークの言葉は確信をついていた。
すでにもうどうにもならない状況なのだ。
ヴァッツは言う「しかし・・・」

マーク「魔力か・・・」「あるじゃねーか!」

そう言うとマークは右手に炎を生み出す。

ヴァッツは先ほどの「開放」で魔力はいったん枯渇したものだと思い込んでいた。
現実が想像とは違うことに驚く、そしてそれは現状を打破する唯一の手段であることに気付く
しかし力をコントロールする術をもたないものに戦闘を託すのは危険だとも思った。
だから

「力は最低限に絞れ!」そう忠告する。



シン 「ヴァッツ君との違いは見受けられましたか?」
ナガレ「魔体化がおきた・・・着ていたものまで一度取り込んでいる。」
   「まぁヴァッツのときは着いたときには全てが終わったあとだったから何とも言えんが」

シン 「覚醒時の肉体年齢の差でしょうか?それともやはり・・・」
ナガレ「やはりあいつらは特別かもしれん・・・」



マークは右手から出す炎をコントロール出来ないでいた。
「ちぃ!止まらねぇ!」

その隙を突いて魔物が攻撃をしかけてくる!
ジャックのように腕を伸ばした攻撃!マークはこれをなんとかかわした。


シン 「魔力に関しては?ヴァッツ君のは、いささか疑問点もあるのですが」
ナガレ「魔体化のあと半人半魔状態・・・その直後に圧縮そして開放が起こっている。」
   「それをもって覚醒完了だとは思うが・・・」

   「魔力が衰えた様子は見られない」

ナガレ「むしろ圧縮したことでヒトの中での形が完成した可能性もある。」



ジャックは自分もやらなければいけないと思っていた。
ヴァッツの危惧もわかる・・・しかし今この場でマークをサポートできるのは自分だけ・・
やらなければ七瀬も危険な目に合わせる。

「力を最低限に・・・」そう呟くと力を表側へ向けて出した。



シン 「直接見たあなたはどう思いますか?アレとの関連性・・・」
ナガレ「容姿は確かに似ていた・・・だが近くもなければ遠くも無い」


ジャックの体が闇の気で覆われる・・・それを上手に左手にだけ集中させた。
「マーク!俺もいる!だから・・・だから最低限でっ!」



ナガレ「闇のコアは覚醒初動時から暴走を始めていた。他の例も考えると危ういな」
シン 「闇の・・・」



マーク「んなコト言っても・・・!!!!・・・!!!!」

自分の内側から突然更なる力が湧き上がってくるのを感じた!
そのとき声が聞こえた気がした
「テ・タ・ス・・ノ・・ョウ・・ス・・」



ナガレ「炎のコア・・・全ての発端・・・」



マークの体を炎が包みあげる!
それは同時に手の形になっていく!


シン 「悪魔の右手・・・ですか・・・」


魔物はその炎に危険を感じたのか
戸惑い一歩後ろに引く


ナガレ「コアは元来、無限魔力の供給源だ」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
自分を抑えるのにマークは必死になった。
ともすればさっきと同じ状況・・・
意識が飛びそうになるがマークの意思がそれをさせない。


シン 「これで3つ・・・」



ヴァッツは最悪の状況を想定した。
マークは必死に己と闘う。

ジャックは魔物への攻撃を開始した。
今この場でなんとか出来るのは自分だけと判断したからだ。
マークとは逆にジャックの力は本当に最低限に抑えられていた。
魔力が消えかかることもあるような状態。

必死に殴りかかるが魔物はのらりくらりと攻撃をかわす。
そして隙を見てはジャックに攻撃を当てていた。

七瀬は何がおきているのか分からない。
マークもジャックも何か自分の知らない世界の住人になったような感覚があった。
しかし必死で戦いながら傷ついていくジャックは自分の知っている彼だった。
だから
だから彼女はあえて普通に言う



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「マーク!何やってんの!」「ジャックが怪我してるじゃない!」

マーク「へ・・・分かってるよ」
汗をかき苦痛に顔を歪めながら言う

マーク「い・・」

歯を食いしばり

マーク「・・・」

己に

勝つ!!!!!

マーク「いくぜぇ!ジャック!!!!」

自分に勝ち、立ち上がりマークは叫ぶ!


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

2人は叫んだ!
マークの右手とジャックの左手は交互に魔物にダメージを与える。
格闘技の経験どころかケンカなんかロクにしてこなかった彼らがあたりまえのように闘っている。

七瀬「なんなのよ・・・これ・・・」
自分の役目を終えた七瀬はまた途方も無い現実に戻る



シン 「覚醒・・・このあとはどうなるのでしょうね?・・・」

ナガレ「最悪の場合・・・同期・・か」

シン 「覚醒、圧縮、開放、同期・・・」

ナガレ「最後に残るのは進化そして滅亡・・・か・・・」




マーク「ちっくしょう!!」
焦りが出る
ジャック「いつになったら終わるんだ!!」
最低限の力ゆえ決定的なダメージを与えることが出来ない2人

ヴァッツは「厄介だな」と思った
「最低ランクの魔物が落ちてきただけだと思ってたのに・・・」
「予想以上に硬い・・・決定打が・・・欲しい」


業を煮やしたマークが突然言い放つ


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マーク「ジャック!!どいてろ!!!」


ジャックは目を点にして驚いた!




マークは両の手を、いや腕までもを炎に変えている!



ジャックはその場から避難しながら咄嗟に叫ぶ



「バ、バカヤロー!!!!」



マークは一度決めたことを諦める奴じゃない。
そのことは誰よりも分かっていたからこそジャックは怒った。

両腕から炎のうねりが飛び出す。

断末魔をあげる間もなく魔物は消滅した。

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img030 posted by (C)無縁


ナガレ「とりあえずは、こんなところか。」
     「今状況分析をしているところでな。終わり次第シローから報告が入る。」
そう言って振り向き部屋を出ようとする

シン 「分かりました。・・・それと・・・」
   「そろそろアレを始めます。リストアップのほうをよろしくお願いします。」

ナガレの動きが一瞬止まる。

シン 「何か問題でも?」

   「3人見つかった・・・だからこそ・・・じゃありませんか?」

ナガレ「・・・わかった。」
ナガレはなにかを覚悟したかのように重い言葉で答える。
そういってナガレは部屋を出た。

扉が閉まると同時に2人は同じことを思った。






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「あと一人!!!」

〜続く〜


第七話



空中へと向けられた炎のうねりは壁と天井へぶつかり破壊を起こす

マークは肩で息をしている。

体力を消耗したのではない・・・心が・・・

ただ心が疲れたからだった



第七話「Hard Day and Night(中編)」



「大丈夫?あなた達!」
突然女性が職員室へと入ってきた。

「チヅル・・・」ヴァッツは少し驚きそして

「少し遅いよ・・・」とどこか悲しげな瞳で言う。


学校へ向かう救急車のサイレンの音が響いていた。





鳳龍会本部のある一室。
ナガレとヘイジが使用する部屋。

ヘイジがグラスにウイスキーを注いでいる。
市販の安物のウイスキーだ。
だが、ヘイジはこの味が好きだった。
どこか世間とは全く違った世界に生きてしまった彼にとって
この味はまだ自分と世界の繋がりを保ってくれているように思えた。

そこにナガレが入ってくる。

ヘイジ「お!・・今さっきチヅルから連絡が入って・・・」

そう言いかけたときナガレの表情に気付いた。

暗い顔をしている。いや正確には落ち込んだ雰囲気が見て取れた。

ヘイジ「どうした?」

倒れるようにソファに座るとナガレは重い口を開いた。

ナガレ「リストアップ開始だ・・・」

2人の間に静寂が流れる

「・・・・・・・・・」

グラスの酒を口元まで運び一口だけ飲むとヘイジは言う

「ツトムのことでも・・・思い出していたのか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ナガレは少しの静寂のあと「ああ」と一言だけ返した。


グラスに浮かぶ氷を見つめながらヘイジは言った。



「鳳龍会が見つけた初めての地属性の人間・・・・か・・・」





怪我をした担任を含め3人が救急車で運ばれていった。
その場に残っていた校長にチヅルが言う
「このあと色々な圧力が掛かりますが、気になさらないでください。」
「ただ・・・このことは、口外無用・・・・」
校長は事情説明を求めるがチヅルの返答は無い。
「余計なことさえしなければ、あなたがたに危害は一切ありません・・・」
「それだけは忘れないでください。」

裏を返せば口外しただけで身の危険がある・・・そういうことである。

校長「しかし彼らはウチの生徒だ!」
おろおろしてはいるものの生徒を気遣う校長。
人情、義務、己やその他の命・・・板ばさみの状態

チヅル「ご安心を」
彼女の表情がどこか和らぐ。見せかけではない優しさ。
それは校長に対する感謝だったがそれを直接表に出すのは許されないことだった。

チヅル「彼らは明日からも通常通り登校しますから・・・」
   「それよりもこのあとの口裏合わせのほうをよろしくお願いします。」

そういって深々と頭をさげた。

チヅル「2人とも!事情を説明するわ。ついてらっしゃい。」

他になす術の無いマークとジャックはチヅルの言動に従うしかなかった。

マークとジャックは顔をあわせ「仕方ない」といった表情を浮かべ後についていく。

そのとき七瀬が「待って!」と大きな声で叫んだ。

チヅルの視線が七瀬へと注がれる。

「私にも・・・私にもちゃんと説明してよ!」
もう半分泣いたような状態だ。

「マークも・・・ジャックも・・・」「このまま・・・」

このままどこかへと消えてしまうかもしれない。
そう思うと彼女の心は張り裂けそうだった。
彼女の視界はもう涙で滲んで何も見えない。

マーク「俺たちもよく分かってねーんだよ・・・ただ・・・あの場所で」
うっかりと口を滑らせた。マークではなくジャックがそう思った

「マーク!」ジャックが牽制する。
あの場所は七瀬も勿論知っている。つまり巻き込むかもしれない。
ジャックはそれを恐れた。

チヅル「この子もあの場所を知っているのね?」

ジャックが噛み付く「おい!あんた!」

チヅル「大丈夫・・・巻き込みはしないわ。」
   
   ジャックの危惧さえ見透かされる。

チヅル「あなたも知りたいでしょ?」
七瀬へと言葉をかける。

泣きたい気持ちを必死に抑えてようやくの言葉で

「はい」と七瀬は返事をした。




とりあえず、という形で全員がマークの家へと行くこととなった。
玄関の前まで来たときにチヅルが言う。
「鍵は開いてるし中には誰もいないわ・・・」

その言葉の意味するところはマークにも分かった。
「無事ならそれでいい」
マークは言葉では強がってみたもののやはり気は重たかった。

ゆっくりドアと開ける・・・

その向こうには静寂が広がっているだけだった。

この瞬間マークとジャックは初めて己の現実を知った。


チヅル 「今日のところはご家族にはホテルに滞在してもらってるわ。」
 
    マーク 「・・・そうか・・・」

全員が居間に入ると突然ヴァッツがチヅルに突っかかる

ヴァッツ「どういうつもりだ!」
    「周りの目が気になったからここまで我慢してきたが・・・」
 
    チヅルが言葉を遮る

チヅル 「彼女のことを言いたいのね?」

ヴァッツ「そうだ!事情を説明するのは事実上巻き込むのと変わらない!」

チヅル 「あまり怒鳴らないでほしいわね・・ハヤミコウイチ君」

ヴァッツ「それは偽名だってあんたが・・・ってはぐらかすな!」

2人のやりとりを見ていたマークが「まぁまぁ」となだめる。
ジャックは「大声出したら周りに聞こえるぜ」と諭した。

「それにまだ自己紹介すらしてもらってないんだ・・・誰だあんた?」

  マーク「あんたも鳳龍会ってことか?」

チヅル「ご免なさい・・・遅れてしまったけど私はチヅル。鳳龍会特務捜索室の一員よ」
   「基本的にはこの子「ヴァッツ」の仲間ってことになるわ」

ジャック「それよりも七瀬を巻き込むのか・・・そうじゃないのか・・・」

ジャックはここまでの情報のせいでこの組織を信用できないでいる。
最悪の答えを出された場合・・・本気で暴れるつもりでいた。

チヅル「・・・そういうつもりじゃないの。ただ一人の人間として彼女を見過ごせなかっただけよ」

ヴァッツが舌打ちをする。

チヅル「駄目ね・・・学校っていう場所が・・・そういう気にさせてしまうのかしら・・」
どこか寂しげな表情で彼女は言った。

七瀬  「それよりも・・・」
泣き止みはしたが不安は解消されない。

そのことをチヅルも悟っていた。そしてすぐに状況を説明する。

コアのこと、覚醒のこと、ナガレが与えた情報と同じことを彼女にも提供した。

七瀬  「そ、そんな・・・」
七瀬は現状を把握するも受け止められないでいた。

チヅル 「そしてこれからの話をするわ」

    「とりあえず2時間あげる。その間に自分に必要なものを選んで持ってきて。」

マーク 「ここには居られないってことか・・・」
ジャック「・・・・・」

チヅル 「たしかにそうね・・・でも勘違いしないで。」
    「あなた達は明日からも通常通り学校に通ってもらいます。」

ジャック「どういうことだ?俺たちの力は・・・」

チヅル 「ヴァッツの時とは違うの。あなた達は分かっているなら抑えられるはずよ。」
    「ただ最悪の事態を避けたい・・・だから家族とは離れてもらうけど
     できるだけ通常の生活をしていて欲しいの・・・」

ヴァッツはこの時心から喜んでいた。それを表に出す男ではないが・・・

チヅル 「これが私に出来る最大限の工作・・・といったところかしら・・・」

    「ご家族は明日には家に戻るわ。連絡もほとんど取れなくなる・・・
     ・・・だからなるべくあなた方のものは置いていって欲しいんだけど・・」

七瀬がふと気付く
    「2人はこれからどこへ行くの?」

チヅル 「二つとなりのM町。そこに新築のマンションがあるわ。これが地図よ」

そう言って一切れのメモを渡した。
ヴァッツは少しの不安があった。そんなことをして良いのかという・・・
しかし彼はチヅルの気持ちをくみ取り何も言わないでいた。

そのメモを受け取ると七瀬は無言のまま急いでマークの家を出て行った。

いつもの2人なら七瀬のことを気にしているところだが、今はそれどころではなかった。

マーク 「学校関連のものだけは全部持ってかないと駄目か・・・」
    「あとは着替えと・・・」
ジャックが気付く
    「お前・・・さっきのせいで学ランの両袖ボロボロだぞ?」
マーク 「これはヤバイか・・・」

チヅル 「念のため手配していて正解だったわね。制服はあとで持っていくわ」

ジャック「俺も急いで戻らないとな・・・」


チヅル 「2人とも2時間後にはM町の駅にいてほしいの・・・」
    「そのあとのことはまた説明するわ」

    「ヴァッツ・・・一旦本部まで帰るわよ。」

マーク 「本部ってどこにあるんだ?」

ヴァッツ「隣県だのS岳だが・・・」

ジャック「おいおい!この時間に間に合う電車あったか?」

チヅル 「走って帰るから心配しなくていいわよ。」
    「ヴァッツ!大丈夫よね?」

ヴァッツ「ああ、魔力は回復してないが問題ない」


チヅル 「それじゃぁ2人とも!待ってるわ」

ヴァッツ「言うまでも無いが・・・逃げないでくれよ・・・」
    「そんなことになったら・・・・」

ヴァッツは言葉を飲み込んだ。
それが何を意味してるかは2人はよく分かっていた。

それ以上に何も出来ない。


逃げることも・・・




人目につかない場所を走る二つの影


ヴァッツ「すいぶんと工作をしたんだな・・・マンションって・・・」

チヅル 「まるごと買い上げたわ。担当者に無理矢理連絡つけて」
    「最悪の事態が起きたとき被害は小さいに越したことは無いもの」

ヴァッツ「つまり他の入居者はいないことが前提か・・・」

    「それよりも・・・」

チヅル 「気にしなくて大丈夫よ・・・」

ヴァッツ「・・・・・・」

チヅル 「・・・・教師・・・だったから・・どうしてもね・・・・」

表には出さなかったがヴァッツは心の中で深く感謝した。





七瀬歩は家まで帰っていた。
ドアを開けると急いで自分の部屋へと向かう。
階段を上がる途中で母親の「あゆみー?ごはんはー?」という声が聞こえた。
なるべく普通を装うべく声だけは元気なふりをして「いらなーい」と答える。

そしてすぐさま部屋の机の引き出しに入っているメモを取り出した。





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シン 「やれやれ困ったものですね。ヴァッツ君もチヅルさんも・・・」
シロー「しかし一般環境の中に置いてみるのも面白いかもしれないな」

ヘイジ「どういうことだ?」
シロー「いや、戦闘環境の中でコアが力を発揮するのは分かりきっていることで」

シン 「つまりそうじゃなくても・・・魔力の増大傾向があるとすれば・・・」

シロー「ふむ、面白い研究になりそうだ。まして学校の中ともなれば・・・」
ナガレ「周囲に影響も出るかもしれん」

ヘイジ「俺は反対だぞ!何の問題もないガキ共が・・・」
シロー「微細値を超えるようならやめれば良い」

ナガレ「一理あるな・・・コアのあった場所なら免疫もあるかもしれん」

シン 「では、チヅルさんの計画に沿う形でいきますか」




ジャックは自分の部屋を見回していた。
「勉強道具と着替え以外は要らない・・・かな」
今朝まではここが当たり前の場所だった。
でもその現実は、もう遠い彼方のこととなった。

「2時間・・・か・・・少しくらい・・・・」


「泣いてもいいよな」

彼は部屋で一人時間が来るまで泣いていた。





私服に着替えた2人は電車を待っていた。
あまり会話をする気分ではなかったが、言葉を出さなければ
飲み込まれてしまいそうな不安感があった。

ジャック「これからどうなるんだろうな・・・」

マーク 「知るかよ。」

「・・・・・・・・」


マーク 「悪魔の力・・・か」
かみ締めるように言う

ジャックはふと思い出したことがあった。
それが気になってマークに聞いてみる
「あの閉じ込められた世界でお前は何か見たか?」


マーク 「?・・・・・あ、」
 
   ジャック「?」


マーク 「あぁ・・・真樹にあった。」

ジャック「なんだよそれは!」
思わず笑ってしまった。

ジャック「お前はいつでもそれなんだな・・・はははは」
変わらない日常がまだここにあった。


だれに敷かれたかも分からないレールの上・・・
あの日あの時から決まってしまったかもしれない道・・・
その道に乗せられるかのごとく

2人は電車に乗り込む



〜続く〜


第八話


本部から急いで例のマンションに向かう二つの影

ナガレ「そういえばさっき何か言いかけていたな?」

ヘイジ「ん?ああ・・例の場所で空間の歪みを感知したらしいって話でな・・」

ナガレ「どうなった?」

ヘイジ「チヅルが着いたときには、もう塞がっていたそうだ。」

ナガレ「自然に閉じてくれたか・・・」








この街の駅に降りた2人・・

マーク「で、俺達はどこに向かえばいいんだ?」



第8話 「Hard Day and Night (後編)」



2人に近寄る中年の男がいる。

「君達がコアの持ち主か・・・本当にまだ子供なのだな・・・」

マーク「なんだ?また・・・鳳龍会の人間か?」

「ま、そんなところだ。私はヒデキ。これから君たちと付き合っていくことになる。」
「よろしくな。」
そう言って彼は握手を求めた。

だがマークはそれを受け取らない。
ここで心を許すことを警戒していたからだ。

ヒデキ「まぁ・・仕方ないな・・・」

ジャック「俺達はこれからどこへ?」

ヒデキ「ついてきなさい」


言われるがまま行動するのはマークの意に反するところではある
が、しかし今は他になす術が無かった。






とある街の中を早歩きで駅に向かう少女がいる。

「おいおいアレどこの制服だ?」
「見たことねーなぁ」

都会と違って田舎の街では制服で人を判断する風習がある。
この学校なら大体どの程度の人間がいて、どうゆうノリなのか。
それによって各々人が互いにいる距離を測れる。

「ちょっと声かけてみろよ。」
「なんかお嬢様系?いいねぇ」

そういった節度を守れない人間も最近は増えてきた。

「よぉ!彼女・・・」

少女は一瞬で表情を変える。
 
「うっさいわね!アンタ達に用なんかないわよ!」

一見お嬢様風に思えていたその娘の態度を見ると男たちは諦めた。


この少女の名は若菜真樹。

歩く速度をさらに上げながら彼女は思い返す。


あれは小学校の卒業式・・・


マーク「絶対!絶対!ぜぇぇぇぇぇったい!高校は一緒だからな!」
先のことなど全く考えないこの男の異常なこだわり。

真樹 「うん。わかってる。マークもちゃんと勉強するんだよ。」

ジャック「にしても暫く会えないのは寂しいな。」
式のあとの喧騒の中「いつもの4人」は互いに言葉をかけていた。

マーク「そうだ!最後に4人だけで写真撮ろう!」

七瀬の母親のカメラで撮影を終えると他の男子がマークへと声をかける。

真樹にとってこれがチャンスだった。
七瀬の腕を引っ張って物陰へと隠れる。

真樹 「これ!」
そう言って一枚のメモを渡す。
七瀬 「何これ?」
七瀬は受け取ったメモを開いてみると電話番号が書いてあった。
真樹 「本当は家族の人意外に教えちゃいけないんだけど・・・」

七瀬 「寮の電話番号?」

真樹 「うん。本当に何か大変なことがあったときにだけ使ってね。」
   「私の妹の名前知ってるよね?それで連絡して」

七瀬 「でも・・・これって・・・」

真樹 「使わないならそれに越したことは無いの・・・」
   「ただ・・・マークに教えるとさ・・・明日にでもかけてきそうで・・」

七瀬 「ははは。そうだね。私が預かっておくよ。」


電話では詳しいことは何も言わなかった七瀬。
しかも二つも離れた街の駅に来いという連絡。

電話の向こうの彼女は泣いているような声だった。
それを思い出した真樹の鼓動は少し高くなった。




ヒデキ「とりあえずこの部屋に入ってくれ」

開いたドアの先にはいわゆる「普通のリビング」が広がっていた。

ヒデキ「急作りで申し訳ない。今日のところはこの部屋を使ってくれ。」

2人は何を言っていいのか分からなかった。ただ次から次と状況が変わっていく。

ヒデキ「もうじきナガレとヘイジが来る。それまでこの部屋にいてくれ。」

マークは答えなかったが、ジャックが「分かった」とだけ答えた。

その答えを聞くとヒデキは部屋から出て行った。


マーク 「なぁ・・・どうする?」

ジャック「どうするって・・・何も出来ないじゃないか?」

マーク 「たしかにそうだけどよ。ただあいつらの管理下に置かれるってのが・・・」

ジャック「他にどうするんだよ?逃げるって言ったってアテなんかないぜ?」

マーク 「そりゃそうだがよ・・・」
自由奔放なこの男にとって誰かの管理下にあることはどうしても納得できることではない。




真樹は電車から降りるとホームを見渡す。
そして七瀬の姿を確認すると近づいた。

うつむき考え事をしている七瀬は彼女の存在に気付かない。
「・・み」

「あゆみ!」

ようやく気付いた七瀬は真樹に抱きついた。


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真樹 「どうしたの?ちゃんと説明してよ!」

七瀬は言葉を出せずにいた。何を話せばよいのか分からない。

真樹 「何でこの街なの?マークたちに何かあったの?」


そこに一人の男が現れる。


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ヒデキ「七瀬歩だな?」

七瀬 「はい。」
涙を拭いながら答えた。

ヒデキ「私はヒデキ。それとそちらのお嬢さんは?」

七瀬 「友達の真樹ちゃんです。私たち・・・」

あとに続く言葉の意味そしてその重さはヒデキには分かっていた。
だからあえて言葉を遮る。

ヒデキ「わかった。しかし・・・(さらに外部に漏れてしまうな)・・・」

真樹には状況が掴めない。医者や警察には見えない。
その様子を感じ取ったヒデキは優しく言う。

ヒデキ「ついてきなさい。君たちにも説明があるから。」




チャイムを鳴らすこともなくナガレとヘイジは部屋へと入ってきた。

ヘイジ「おぅ!着いてたな!」

ナガレ「さて・・」

そう言いかけたときチャイムが鳴る。

マークとジャックは驚いた。

真樹の姿がそこにあったからだ。

真樹はマークへと駆け寄る。

「別に怪我してるとかじゃないんだね?何があったの?」

真樹の心配そうな顔を見ながらマークは何かを思い出しかけていた。

マーク「なんか・・・なんか忘れていた現実が・・・あるな・・・」

自嘲気味に言う。
真樹との距離・・・それが彼を現実へと戻した。
言葉では分かっていても現実として認識するにはほど遠かったのだろう。
そして現実を受け入れたマークは覚悟を決める。

マーク「1からちゃんと説明してくれ。」


ナガレ「どこから話せばよいものかな・・・」


ナガレ「太古の昔・・・一匹の巨大な魔族がこの地上に堕ちた。」

   「そのときその体はバラバラになり人はそれを手にした。」

   「これが悪魔の力と言われる由縁だ。」


マーク「それがコア・・・ってことか。」

ジャック「あんたたちもコアの持ち主なのか?」


ヘイジ「いや、俺達は違う。」

ナガレ「バラバラになった体・・・その断片・・それは五つになったと言われている。」


   「そのうちの三つが今こうしてここに揃った。」

マーク「・・・・・・ってことだ。」
そう言って真樹に目を向ける。

真樹にとっては現実半分といったところだった。3人目が誰なのかもわからない。


ジャック「あんたたちも魔力はあるんだろ?そのへんは?」

ナガレ 「コアの残りかす・・・という言い方が分かりやすいかな?」
    「例えば一本の鉛筆を折るとする・・・鉛筆は二本に分かれるが破片が飛び散る。」
    「ワシらは、この破片に該当する力をもった者・・・そう思ってくれればいい。」

ジャック「急激に運動能力があがったことは?魔力とは別な気がするが?」

ナガレ「詳しいことは全て研究段階だが、一つだけハッキリ言えることがある。」


   「それは戦闘生命体への進化だ!」


ヘイジ「・・・・・・・・・」


ナガレ「進化と呼ぶのが正しいかどうかはわからん。だが先ほど入った報告からも・・・」

マークとジャックはさっきの戦闘を思い出していた。
あれは己の中にある力の本能。それが引き出されていた感覚。
ナガレの言葉は衝撃であったが、同時に2人を納得させた。 
  
ナガレ「君達2人が手にしたコアは400年ほど前にある事件で行方不明になっていたものだ」

ジャック「事件?」

ナガレ「いずれ話す日がくるだろう・・・」

   「そしてそれより以前から語られている話・・・」


   「魔核は一国をも滅ぼす力」

ヘイジ「お前たちはそれを手にしちまったってことなんだ。」


ナガレ「ヴァッツからも指摘されたと思うが力の暴発にだけは気をつけて欲しい。」
   「そのためにとった措置なのだからな・・・」

措置という言葉で片付けられるには重すぎた。

 

雛はやがて巣から飛び立つときが来る。
しかし彼らはその前に突然巣を奪われたようなものだ。


マーク「だからといってあんたたちの管理下に置かれるってのは・・・」


ヘイジ「そのことについてだが、お前たちはこれからも普通の生活をしてもらうことにした。」

ナガレ「ただし監視はつくがな。」

ヘイジ「俺達はこれから別の仕事があるんで暫く顔を出さない。」
   「監視者とはうまくやってくれ」

ナガレ「監視者へコア入手の経緯などは話しておいてくれ。あとは自由だ。」


なんだか拍子抜けした気分だった。しかし自由にしていいという言葉が2人の心を軽くした。


ナガレ「今日はここまでにしておこう。」

ヘイジ「邪魔しちゃ悪そうな雰囲気だしな。ハハハ。」

マークがぼそっと「親父くせー」と呟いた。

ナガレ「明日には寝具の運び込みなども行う。部屋を決めて監視者に伝えておいてくれ。」

ヘイジ「じゃぁな!」

そういって2人は外に待っていたヒデキとともに姿を消した。



なぜか突然空気が重くなった。誰から口を開いていいのか分からなくなった。
説明してくれる大人がいなくなったせいなのだろう。
ただ、真樹だけはまだなんだかわからないままだった。

真樹「ねぇ・・・一体・・・」

マークは自分が知りうる限りで説明をした。

それを聞いた真樹が大きく息を吐き出す。

「よかったぁ・・・・」

3人は意外な言葉にキョトンとしてしまった。

真樹「だってさ、別にマークがマークじゃなくなるワケじゃないんでしょ?」

マークはその言葉にハッとさせられた。

真樹「それにすっごく心配したんだよ。大きな事故に会ったんじゃないかとか」
  「マークがケンカでもして誰かに怪我させたんじゃないかとかさぁ」

ジャック「後者のほうが可能性としては大きいな」
マジメな顔で言うと皆が笑った。

ようやくいつもの4人に戻ることができた。
真樹のたった一言が「本当の現実」を導きだしたのかもしれない。

ジャック「さて、夜も更けてきたし俺は七瀬を駅まで送っていくよ」
七瀬  「そうだね。2人はもう少しここにいたら?」
七瀬の顔にいつもの笑顔が戻っていた。
ジャック「俺が戻ってきたら送っていけよ」
そう言って二人は部屋を出て行った。



マーク 「学校のほうはどうなんだ?」
真樹  「楽しいよ。一緒の高校受験する子がいてね。その子と同じ部屋なんだけど」
同じ部屋ということに相手が女子であることは理解しつつもマークは嫉妬した。
真樹  「マークやジャックのこと話したらさ、ぜひ会いたいって!」
マーク 「どんなこと話したんだよ」
真樹  「それは秘密。でもとにかく楽しみにしてるよその子は!」




ジャック「ありがとうな。マークにはアレが最高の特効薬だよ。」
    「俺も会えて嬉しかったし。」
七瀬  「ううん・・・私もどうしたらいいか分からなかったから・・・」
ホームに電車が入ってきた。

ジャック「じゃぁ明日また学校で・・・」
七瀬  「うん。」
そういって小さく手を振る。


部屋に戻るとマークに促す「そろそろ電車なくなるぜ」

2人の時間は短かったけれど満足はできたようで
「じゃぁ行くか」と言ってあっさり出て行った。





駅のホームには二人のほかに人はいなかった。

ここに来る前から決意していたこと・・・他に人がいないことを確認したマークは



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「真樹・・・これが・・・・俺の力だ」



覚悟の表情をを浮かべながら己の右手に炎を灯した。

まだ力を見ていなかったから言えた科白なのだろうとマークは思っていた。

だからこそ彼はありのままの自分を見せつけることを決意していた。


真樹はそれを見ても態度を変えなかった。


「さっき喋っててわかったから・・・マークはマークだもん」


「そうか・・・」マークは笑顔とともに炎を消す。


電車が入ってくると別れの時間がやってきた。

マーク「しばらくまた会えないな。・・・あと半年か・・・」

真樹 「大丈夫!また仲良し4人組み復活だよ。いや5人かな?」

マーク「楽しみにしてるぜ!」





山間を走る3つの影

ヘイジ「嘘も方便とは言ったものだぜ!」

ナガレ「完全な嘘というわけでもあるまい。御伽噺のほうが分かりやすい。」

ヒデキ「子供たちに全ての現実を受け入れろというのも無理があるしな。」

ヘイジ「・・・・ふん!」




ジャックにとって一人になった時間・・・
色々なことが頭よぎる。
そしてそれを真樹の言葉で上書きをし続ける。
「自分は自分」そういうことだ。
それを何度も頭の中で繰り返しているときに突然思い出した。




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「ヤツ」は一体なにものなんだ・・・???



今回のイメージイラスト1 今回のイメージイラスト2 今回のイメージイラスト3

〜続く〜


第九話


どのくらい寝たのだろうか・・・
極端に長く深い睡眠をとったような気もするが・・・

寝具もろくに無い状況、しかも慣れない普段とは違う環境の中で2人は眠っている。

実際のところ彼らの脳は軽い興奮状態にあり、浅い眠りと深い眠りを短時間のうちに交互に繰り返しているだけの状態だった。


突然玄関のチャイムが鳴る。

今現在が何時なのかも分からない。

チャイムの音よりも時間が気になって仕方なかったマークは、テーブルに置いた自分の腕時計をまず見た。

マーク「よ、4:30!・・・」

ジャックが仕方ないといった感じで起き上がる。「今何時なんだ?」マークに尋ねる
マークが答えると「こんな時間に一体なんなんだ・・・」眠い目を擦りながら玄関へと向かう。

中からの反応がないことに苛立ったのか表から声が聞こえてきた


「監視者だ」


第9話 「Brand New Day」


ドアを開き姿を確認したジャックが言う
「お前のことだったのか。」

そこにはヴァッツがいた。

マークが近づき「とにかく入れよ」そう促す。


部屋に入ったヴァッツは持っていた2つのトランクと大きな買い物袋を床に置いた。

ジャック「それは?」

ヴァッツ「当面の生活費・・・って奴だ」
そう言ってトランクを開ける。
その中には札束が詰まっていた。

昨日までの2人が見たならそれが他人のものであっても涎を垂らしていたであろう。
しかし今の彼らにとっては、また現実を突きつけられただけだった。

マークはふっと溜息をつく。

ヴァッツ「必要なものだろう?・・・で、部屋はどこを使うか決まったのか?」

マーク 「あのなぁ・・・昨日の今日だぞ。そんな落ち着いて考えてられっかよ!」

ヴァッツ「じゃぁ今から決めよう。俺の部屋も含めてな。」

ジャック「勝手に進めんな。それにこんだけの現金一度に受け取って泥棒でも入ったらどうすんだ?」

ヴァッツ「ここら一帯には結界が張ってあるから問題ない。ただの人間ならここは無意識に避けるよ。」
    「とにかく俺は本部への報告もあるんで話を進めたい。」

マーク 「学校はどうするんだよ?」

ヴァッツ「今日のところは休・・・」
言いかけたときマークはすでにヴァッツの首から上を羽交い絞めにしていた。

ヴァッツ「な・・」

マーク 「話なら学校でもできるぜ・・・どうせヨソ者は入れないってなら鍵開けて書置きでもすればいい。」
    「のこり僅かな中学生生活を一日も棒に振るなよ」

ジャックはやれやれまた始まったか・・・そう思った。
それと同時に真樹の「マークがマークじゃなくなるわけじゃないんでしょ」という言葉を思い出した。

マークがヴァッツを無理矢理リビングに運ぶ。

ジャックはもう一つの荷物が気になっていた。
「なぁ?こっちは何だ?」

マークを振りほどいたヴァッツが答える。
「あぁそれは、例の学生服と・・・あと食材だ。」

「昨日から何も食べてないんだろ?」
そう言って彼は袋のほうに戻ってゆく。

ヴァッツ「ちゃんと三人分の制服が入ってるな。」

ジャック「なんかお前は学ラン似合わなそうだな」

マーク 「サイズは合うんだろうな?」

ヴァッツ「そのへんはちゃんと調べてるみたいだな。」
     「ともかく飯にしよう。」「今日のところは俺が作るよ。」

そう言うとすたすたとキッチンへと向かう。

マーク 「お前料理できんのか?見た目に合わず・・・」

そのときマークとジャックは衝撃的な光景を目撃する。



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ヴァッツ「お前たち野菜の皮むきくらいはできるんだろうな?」

2人は笑い転げていた。
ヴァッツ「なんだ?何かおかしいのか?」

マーク 「いや・・・それは無いだろ」
言葉を出すのも苦しい。

ジャック「料理するときにエプロンまでは理解するけど、・・・」
呼吸を落ち着けたつもりだったが、やはりまた笑いがこみ上げてくる。
     「フ・・・フリルつきはさすがにないだろ」

マーク 「駄目だ!息できない!」

ヴァッツは自分の格好を確かめながら疑問を抱いている。
「料理するときはこうゆうものだって聞いてたんだが・・・」

マーク 「おかしいと思わねーのかよ」
2人の笑いはまだ止まらない。

ヴァッツ「ずっとこうしてきたし・・・」

ジャック「とりあえずそれ脱いでくれよ・・・このままじゃ手伝えない。」
笑って指が震えれば怪我の一つもしかねない。
それ以上にこのままでは呼吸が持たなくなるかもしれない。そんなことからジャックは言った。



大人しく指示に従ったヴァッツは料理を始める。


マーク 「一体何作るんだ?」

ヴァッツ「ハンバーグだ。それに野菜をつける・・・以上!」
突然真剣な目つきになる。

ジャック「レトルトじゃなくて・・・作るのか。本格的だな。」
彼は素直に感心している。

マーク 「朝飯としてはきついんじゃねーか?」
ジャック「まぁ昨日何も食ってないし丁度いいだろう。」

ヴァッツ「ご飯はレトルトになるが今日のところは我慢してくれ。」

手際よく調理を始めるヴァッツ。
ただ見てるのも気がひけてしまうので手伝い始める二人。


ヴァッツ「ひとつひとつ整理していこうか・・・」

  マークとジャックは、コア入手の経緯を記憶にある限りで話した。
3人は作業の手を休めることなく話している。

ふっと息を吐くと同時にヴァッツは呟く
「黒い玉のようなもの・・・俺には記憶に無い・・・」

ヴァッツはこのあたりの記憶が完全に飛んでいるため
コア入手の経路が全くつかめない。






当時の鳳龍会の一室
シロー「400年前のときはどうったんだ?」

ナガレ「あのときの水の魔核は無限魔力を持っていたのは間違いない。」

シン 「その話が本当ならば、この子は違うかもしれませんね・・・」

ヘイジ「しかし俺たちクラスの「闇の力」を持つもんでも覚醒時にアレだけの力は・・・」


突然部屋に一人の男が割って入る。

???「いやその子は間違いなく水の魔核の持ち主だ!」

その男にナガレが詰め寄る! ナガレ「ブンゴ!貴様よくもぬけぬけと・・・」

ブンゴ「その子に力を与えるのがワシの役目だ。しばらく預からせてもらうぞ。」




ヴァッツ「そうして俺は力をコントロールするための修行についた。」

    「2人とも力の出し入れはできるのか?」

言われた二人は各々手に力を宿す。

マーク 「まぁこの程度なら・・・すぐにな。・・・」

その様子をあらためて見たヴァッツが言う
ヴァッツ「俺にはそれすら難しかったんだがな・・・」


    「さぁ!飯にしよう!」

リビングに運んで食事が始まる
時間的には相当早い。

ヴァッツ「次は部屋割りだな。」
    「一応言っておくが、俺たちに最悪の事態が起きたことを想定してこの場所にいる。」

ジャック「う〜ん。それじゃぁ全員バラバラにすべきか?上、中、下てな感じで。」

ヴァッツ「俺もそれが妥当だと思う。何があるか分からない以上・・・」

しかしマークはそこに口をはさむ
マーク 「いや隣同士にしよう。」

ジャックにとっては考えなしの発言にしか聞こえなかった。こいつはそうゆう男である。
ヴァッツはまだそのへんが分からないので理由を聞かざるを得なかった。

マーク 「誰かが暴走したなら壁をぶち破ってすぐに助けたほうがいいだろ?」
    「バラバラに住んだら対応が遅れちまう。」

なんとも意外と言うか、的確な考えを述べると二人はそれに従うことにした。

食事が終わり3人は制服へと着替える。

マーク 「もう出発しなきゃならねーのか?」

ヴァッツ「表面上はお前達はまだあの街に住んでいるんだ。誰よりも早く学校に行かないと不信に思われるぞ」

マーク 「これから毎日これかよ・・・」







ナガレ「開放じゃない?」

シロー「ふむ。・・・あのときの状況をあらためて見直したが・・・」

シン 「どういうことです?」

シロー「ナガレの仮説どおり「圧縮」によってヒトの中での形が完成したとするならばだ。」

シン 「圧縮時に漏れ出たエネルギーが存在するかもしれませんね。」

ヘイジ「じゃぁ何か?あれだけのエネルギーの嵐は残りカスに過ぎないってことか?」

シロー「それ故に「コア」なのだろう。・・・まさしく悪魔の力だな。」


シン 「もうひとつ分からないことがありますね。」

ヘイジ「コアのあった場所か?ここから目と鼻の先みたいなもんだしな。」

シン 「ええ・・・あの辺り調査してないはずは無いんですが・・・」

ヘイジ「俺たちですら認識できなかった・・・てことか?」

ナガレ「仮説に過ぎんが、そうなると奴らしかいないな。」

シロー「我々だって同じ能力を持っているのにか?それでも気付けないなんてありうるか?」

シン 「我々のは擬似的なものに過ぎませんからね。知らない術があってもおかしくはないかもしれません。」


ナガレ「敵対するつもりは無いくせに・・・厄介な連中だ。・・・・」





開門と同時に3人は校舎へと入る。

ヴァッツ「これからは毎日こんな生活になる。」

ジャック「他の人間に知られたくもないし仕方ないな。」

マーク 「教室に誰もいないってのは寂しいな。」


そうして彼らの新しい日常が始まった。





ヒデキ「部屋割りは中央に並べて配置・・・か。」
   「彼らなりに考えてはいるようだな。」

チヅル「私たちが考えてるほど子供じゃないってことね。」

ヒデキ「ヴァッツは望んで学校に行ったようだな・・・」

チヅル「うれしいわ。」


ヒデキ「それにしても・・・あんたが無事で良かったよ。」

チヅル「私自身驚いてるわよ。当然「処分」されると覚悟してたしね。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ナガレ「シンからの伝言だ・・・」

チヅル「・・・・・・・・・」

ナガレ「お咎めなし・・・だそうだ。

チヅル「え?

   「そんな・・・頭をあげてよナガレ。」

ナガレ「ありがとう。ワシらは何か大切なものを置き去りにしていたようだ。」

   「これからもあいつらを宜しく頼むぞ。」

チヅル「・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

チヅル「なぜ・・・・なのか考えるのは止めにしたわ・・・」

ヒデキ「・・・・・生きてることが大事・・・・・だからな。」

チヅル「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃ・・・」

ヒデキ「いや、分かってるさ。」
   「それよりも我々の仕事をこなそう。」

チヅル「これからは影からのサポートになるわね。」



なぜ彼女は大人しく解放されたのか。
彼女はそれを考えなかったことを後に後悔することになる。






七瀬「おっはよー」

  「昨日寝ないで考えた文化祭の企画。読んでもらえる?」



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〜続く〜


第十話








マーク「企画?」



七瀬 「うん・・・昨日・・・言ってたよね・・・」

   「運動能力が向上した・・・って・・・私も実際にこの目で見たし・・・。」

彼女の脳裏によぎるのは職員室での戦闘。忘れられるものではない。


七瀬 「だったらさ!アクションとかこなせるじゃん!」
   「ウチの学校祭は、近所の子供たちもたくさん来るし思い切ってやろう!」


マークは手渡された企画書を開いてみる。


そこにあったのは









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img043 posted by (C)無縁

マーク 「却下だーーーーーーーっ!!」

七瀬  「なんでなんで!今子供たちに大人気なんだよ!」
    「マークとジャックそれにヴァッツ君も加わればすごい舞台が見せられるじゃない!」

ジャック「(やれやれ・・・何考えてんだか・・・)」

七瀬  「オープニングの曲すっごいカッコイイんだよ。」
    「せっかくだからこの際にCD買おうかと思ってたのになぁ。」

マーク 「それが本音かよ!」

七瀬  「それよりも!寝ないで考えた企画だもん。生徒会に通すからね!」

ジャック「おいマジかよ!勘弁してくれ。」
さすがに(これはまずいな)と思ったヴァッツが口を挟む。
ヴァッツ「まぁ・・・気持ちは分かるが俺たちの能力が表ざたになるのは避けたほうがいい。」
    「そろそろ他の生徒も来るころだ。この話題は終わりにしよう。」

七瀬は口を尖らせてすねたふりをしている。

実際には彼女は寝れなかっただけだ。結局不安を紛らわせる方法が見つからずこのような企画を立てた。
最初から生徒会にこの企画を通すつもりもなかった。
ただ笑い話にしたかっただけなのだろう。昨日のことさえも笑い話で済むならそれが一番いい。
そしてこのことはマークとジャックは勿論わかっていた。
七瀬の気持ちを汲んでのやりとりである。

たとえ紛い物でもいい。そこに自分たちの望む日常があるなら・・・




それから約二ヶ月が過ぎる。




鳳龍会本部
シン  「その後のコアの2人に関してはどうですか?」

ヴァッツ「力の出し入れは当たり前のようにできている。力を使う場面は今のところないがな・・・」

ナガレ 「今のところは問題なし・・・か。」

ヴァッツ「環境は変わったけど学校生活があるせいなのか情緒に乱れは感じない。」

シン  「つまり暴走に対する危険性はゼロに近いと?」

ヴァッツ「ああ・・・そっちはどうなんだ?例の場所・・・調べたんだろ?」

ヘイジ 「何も分からなかった・・・てのが結果だな。」

ヴァッツ「マークの話を聞いてもよく分からないんだ。自分たちしか知らない場所ってだけで。」

ナガレ 「(やはり・・・)」
    「文献を調べても特別な場所の可能性は出てこなかった。」

ヒデキ 「地元の人間に聞いてもそれらしい反応も無いしな」


ヴァッツ「さて今日はこれくらいでいいかな?このあと学校祭なんだ。」

チヅル 「心なしか楽しそうに見えるわよヴァッツ!」

ヴァッツ「初めてだらけの世界だよ・・・学校ってのは。」

チヅル 「表まで送るわ。」




ナガレ 「チヅルの作戦が功を奏したな。暴走の可能性はなさそうだ。」

シン  「そうですね。彼らの平穏が破られない限りは・・・・」






この学校の祭りは、学校だけにとどまらず地域全体の祭りとなっている。
かつては栄えていた街の名残・・・とでもいうのか、この日は特別扱いだ。


ヴァッツ「屋台もたくさん出ているんだな。」

マーク 「あぁ。そんじゃ順番に見て回るかな。」

そう言ったときにジャックが少し距離を置く

ジャック「俺は一人でいい。どうも苦手でな。」
彼はこういった賑やかさがあまり好きではなかった。
すこし一人になってこの雰囲気とは離れていたかった。

マーク 「そうか・・・じゃぁヴァッツは俺がつれて歩くよ。」

それを聞いたジャックは一人で校舎から出る。

校舎内に無数に立ち並ぶ屋台。
慣れない喧騒が今が普段と違うことをあらわしていた。

ヴァッツ「ヨーヨー?」

マーク 「?水風船のやつか?子供のころよくやったな。」

ヴァッツにはそういう経験が無い。興味を持つとそれにしがみついてしまう。

マーク 「やるのか?こつがあるんだぜ?・・・」

こんな調子で2人は次々と屋台をまわってゆく。

そんなとき七瀬が合流した。

七瀬  「生徒会のお仕事もあって遅れちゃった。」

マーク 「だからお前はもう生徒会長じゃないだろうが。」

2人の会話はヴァッツには聞こえていない。
今は目の前のりんご飴に夢中だ。

七瀬  「ヴァッツ君にはこういうの初めてだもんね。」
彼のほうをみて微笑みながらそう言う。

そのとき七瀬はジャックがいないことに気付く。

七瀬  「あれ?ジャックは?」

マーク 「あぁあいつならさっき校舎を出たぜ?」
     「こういうの苦手だしな。」

七瀬  「もう!せっかくのお祭りだってのに!」

また彼女のおせっかいが始まった。

マークは「ほどほどにしとけよ。」と彼女を諭すが聞いてない。

走って校舎を出て行った。



校舎の裏手。
ここなら誰も来ないだろうという場所がジャックの頭の中にはあった。

しかしそこに着いてみると先客がいた。

他校の生徒と思われる人間が数人いる。

「?」ジャックは何をしてるのかと首を伸ばして見てみる。

「おい!持ってるんだろ!」

いわゆるカツアゲだった。
そして脅されてる人間をよく見てみると現生徒会長の男である。

ジャック「重本繁一・・・」
知らない顔ではない。
そんな程度の仲でしかないが、知らないフリをするワケにはいかない。

他校の生徒はジャックの存在に気がつく。

「あぁ?誰だ?」

そう言われたジャックは沸々と己の感情がこみあがってくるのを感じた。

「お前も俺たちに募金してくれんのか?」
やらしい笑顔で問いかける他校の生徒たちを目の当たりにし
「むかつく」心を抑え切れなかった。

ジャック「失せろ!」
ひと睨みして口に出すが彼らは態度を崩さない。

彼らが怯まないせいでジャックは脅しをかけるしかないと思っていた。
しかし
それ以上に感情のほうが抑えがきかない。
次第に左手が熱くなってきた。

ジャックが頭の中でどう自分を抑えるかを考えたとき



「だめ!!!!」



七瀬の声が聞こえた。



その声、そのセリフはジャックの記憶を呼び起こす。


マーク達と出会った次の日の放課後のことだ。
学校を終えて帰宅の途。
彼はいつもの儀式の最中だった。
儀式とはつまりいじめである。

転校する度いつもこうだ。
なぜ自分がこんな思いをしなければならないのか。
もうそんなことを考えるのは放棄していた。

例によって左利きというだけで何故かバカにされていた。
そして同級生の行為はエスカレートし暴力に至る。

ヒーロー番組ならここで助けが入るんだろうなぁ・・・いつも思っていた。
現実と言うのはそんなに甘くない。
そのせいで彼は笑顔を失っていた。

昨日は久々に本気で笑ったのに・・・やっぱりこうなのか・・・

そう思っていたとき七瀬の声が響き渡る。


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「だめ!!!!」

同級生から「ジャイアン」というあだ名でよばれていた男が振り返る。

七瀬  「その子はね、昨日マークと仲良くなったばっかりなんだからね!」

それを聞いた「ジャイアン」は顔をひきつらせる。

マークは誰とでも仲が良い。しかし彼は暴れると手がつけられない子供でもあった。
彼が暴れるときの理由はいつも大事な仲間をバカにされたときだった。
同級生はそれを知っている。

七瀬  「このことマークに喋ったらどうなるか分かってるんでしょ?」
     「今日のとこは黙ってるから二度とこんなことしないで!」

七瀬の言葉を聞いた「ジャイアン」達は渋々その場を離れた。


「大丈夫?」と七瀬がジャックに手を差し伸べる。

少し話すと2人の帰り道はほとんど同じであることが分かった。
「じゃぁ一緒に帰ろう。」そう言って並んで歩くことにする。


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七瀬  「まったく男の子なんだからしっかりしてよ!」
     「ヒーローにならなきゃ駄目じゃない!」
ジャックには返す言葉がなかった。
いつも助けを待ってるだけの自分・・・。
自信なさげにうつむいて歩く姿を見て七瀬はため息をつく。

七瀬  「もう!シャキッとしなよ!」
     「喋り方も変えたら?マークみたいに男らしくさぁ。

言葉の端端からマークへの信頼が伝わってくる。
それを感じたジャックは思わず七瀬に尋ねた。

ジャック「七瀬ちゃんはマークのことが好きなの?」
突然の予期せぬ言葉に驚く七瀬

七瀬 「ば、・・・ち、違うわよ!」

しかし彼女は頬を赤く染めている。
そして彼女は続ける。

七瀬  「それに・・・あいつには真樹ちゃんがいるし・・・」

つい昨日見た彼らの距離・・・そして七瀬の言動から彼らの関係が想像できた。

そして七瀬はジャックに言う。

「あ、じゃぁさ!ジャックが私の彼氏になればいいんだ。」

ジャックは何を言われたのかよく分からなかった。
七瀬もすぐに打ち消しの言葉を入れる。

「何言ってるんだろうね・・・私。」

しかしこの言葉が2人のその後の関係の始まりであった。
”そのため”だけにジャックは自分を変え今に至る。







気がつくと他校の生徒はもう逃げ出していた。

七瀬が「大丈夫?シゲちゃん!」と駆け出していくのを見て

「何も変わってないんだな」とジャックは呟いた。
そして
「七瀬のおかげでヒーローになり損ねた。」
そう言ってる隙に重本はその場を離れた。
そんな姿をさらすのが嫌だったのだろう。

ジャック「う〜ん・・・チャレンジャーって奴やってもよかったかもな。」

七瀬にはその言葉が誤魔化しであることが分かっていた。

七瀬はじっとジャックを見つめる。

ジャックは「大丈夫だよ!」と平気そうに答える。

2人は共にさっきの場面を思い出していた。

思えばさっきの「だめ!!!」はジャックに投げかけられていた言葉なのかも知れない。

ジャックは「ちょっと一人にしてくれ」と言いその場を去った。







マークとヴァッツはジャックの力が解放されかけたことを感じ表に出てきていた。

ちょうどそこで逃げてきていた他校の生徒と出くわす。

「そこどけよ!」と突っかかってくる様子を見て
ジャックと揉めたかな?マークは思った。

しかし彼らがケンカした様子もなければ怯えてる様子もない。

「テメェ!こっちは今むかついてるんだ!」
ケンカをふっかける側の常套句だ。

「なんならてめぇもあいつみたいに・・・」

おそらくその言葉がハッタリであろうことはマークにも分かっていた。

しかし状況を勝手とはいえ想像してしまうと・・・


マークの心に火がつく


ゆっくりと

「あいつ・・・って・・・・・・誰だ・・・・」

他校の生徒は「あぁ?」とさらに悪態をつく。


しかし次の瞬間

マークは右手に一瞬だけ炎を写した。

ほとんどの人間には見えていなかったであろう。

だが人間の直観力というのは計り知れない。


他校の生徒はすぐさまその場から逃げ出した。


その場が静まり返るとヴァッツがマークの肩を掴み

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「今のは、やり過ぎだろう!」と諭す。

マークに言葉が届いているかどうか分からなかったヴァッツは、力を入れて体を引いてみる。

一瞬マークの顔が違って見えた。

その状況にヴァッツは戸惑った。

「お、お前・・・」


マークは一息吐き出すと彼のほうを向かずに
「大丈夫だって・・・心配すんな!」

そう言葉を投げかける。










彼らは改めて思う。




この・・・・チ・・カ・・・ラ・・・・・・



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今回のイメージ漫画1 今回のイメージ漫画2 今回のイメージ漫画3

〜続く〜


第十一話




学校祭からさらに1ヶ月が経つ・・・。

ヴァッツは週に一度は本部に顔を出し定期的な報告を続けている。

しかし・・・未だにあのことは言えないでいた。


マークとジャックが暴走しかけたことについて・・・。


報告書を閉じたシンがヴァッツに言う。

シン  「問題は無いようでなによりですね。」

ヴァッツは後ろめたさがあったせいで言葉を出すタイミングがずれてしまう。

シン  「どうかしましたか?」

ヴァッツ「・・・このまま・・・」

    「いや・・・なんでもない・・・。」

それを見たヒデキが疑問に思う。

ヒデキ 「らしくないな。何かあったのか?」

ヴァッツは飲み込んだ言葉を出してよいかどうか迷っていた。

少なくとも平穏が保たれている限りは2人に暴走の危険性は無い。

しかし・・・その均衡が破られるような予感を感じていた。

ヴァッツ「最近・・・不穏な空気を感じる・・・」

チヅル 「どういうこと?」

ヴァッツ「うまく言葉にはできないんだ・・・ただ・・・」


一同  「?」


ヴァッツ「ただ・・・何かが起こりそうで・・・」


チヅル 「考えすぎなんじゃないの?」

ヒデキ 「そうだな・・・今までこんな世界にいたせいだろう。」

シン  「表の世界は眩しいですからねぇ・・・。」

ヴァッツはそうなのかもしれないと思うと少し笑ってしまった。

ヴァッツ「それじゃ俺がまるで危険を求めているみたいじゃないか。」
その場にいる全員が笑う。
シン  「しかし直感は侮れません。・・・少し私のほうで調べておきましょう。」

その言葉を聞いたヴァッツは部屋を出る。
例によってチヅルがついてきた。

チヅル 「そろそろクリスマスの時期じゃない?」

ヴァッツ「あぁ・・・そういうイベントがあるらしいな・・・」

チヅル 「彼女へのプレゼントは買ったの?」
茶化すように言う。

ヴァッツは「そんなのはいない」と否定をすると

チヅル 「あら不特定多数?そういうのはイケナイわよ。」
とさらにバカにする。
しかし彼の場合はまんざらそれが冗談でもない。

放課後以降の付き合いは絶対にしないが、校内では必ず誰かが傍にいるのだ。

なんだか見透かされたようで居心地の悪いヴァッツは急いで本部を後にした。

遠ざかるチヅルから声がかけられる。


「クリスマスにはケーキを食べるのよ!」


第十一話 「Happy X'mas」




マーク 「ぜっっっっったい!つまんねーーーーーー!」

なにやら不機嫌そうな声。

ジャック「仕方ないだろ。毎年のことじゃねーか。いい加減にしろ。」

学校へ行く準備をし着替えながら答えるジャック。


ジャック「とにかく学校行くぞ。今日出れば冬休みだ・・・」

自身の言葉にまた日常が遠くなってしまうのかと思うと気が重かった。


世間はクリスマスイブ。
街は色めき、空気の変わる日だ。

七瀬の提案で小学校のころからこのメンバーはいつもパーティーをやっている。

パーティーとは言ってもただ集まって騒いでケーキを食べるだけだ。

真樹がいない。
マークはただそれだけでごねているのだ。

ジャック「今年はヴァッツもいるんだ。少しは盛り上げようとしろよ。」

マーク 「で?そのヴァッツは?」

ジャック「昨日本部に行くって言ってたろ!そっから直接だよ。」

マーク 「あぁ・・・そんなこと言ってたっけ・・・」

基本的にマークは周囲にとらわれない。
そのせいもあってジャックはフォローに回る。

彼らの日常が崩れ去った今もこれは変わらない。

そしてそれは、彼らがまだ人として踏ん張っていける理由にもなっていた。


電車を降りて学校までの道。
彼らはあえて遠回りをする。

自分達の住んでいた家を遠ざけるために。

誰に言われたわけでもない・・・自分たちでそう決めたこと。

そこに甘えを残せばこれからどんな思いをするか理解していたから・・・

自分達だけでなく家族も苦しい思いをする。

本部を介在し互いに元気であることを確認できればよい。

少なくとも・・・今は・・・・



教室に入ったときは自分達しかいない。
そんな生活にも慣れてきた。

少し遅れてヴァッツが入ってくる。

ヴァッツ「クリスマスにはケーキを食べるのか?」

彼の目は真剣だ。

マーク 「ん?あぁ・・・今までそういうのなかったのか?」

ジャック「てかケーキがなんなのか知ってるのかお前?」

そこにいつも通り七瀬が入ってくる。
なんだか焦ってる雰囲気だ。

七瀬  「ごめ〜ん!今年ケーキ予約するの忘れてた!」

それを聞いたヴァッツはかなりのショックを受けている。

七瀬  「今年は色々あってすっかり忘れちゃってたよ〜。」

色々というのは勿論2人のことだ。
日常をこなしている彼女にとってもやはり気がかりなのであろう。

ヴァッツ「なら俺が買ってくる!」

マーク 「別にどうでもいいじゃねーか。」
    「今年のクリスマスは中止にしようぜ!」

だがヴァッツは引かない・・・というより聞いてない。

ヴァッツ「金には困ってないからな・・・最高のケーキを買って来よう!」

マーク 「聞けよ!」

ヴァッツ「マーク!放課後の任務を伝える!」



あっ  というまに放課後がやってくる。



このあとは冬休みだ。
僅かとはいえ会えない間を惜しむ空気が教室内に流れる。

女子生徒の一人がヴァッツへのプレゼントを渡そうとしていた。
この日のために何度もシミュレーションをしたであろう。
今日彼女はヴァッツへの思いとともに渡すつもりだ。

「あの・・・」と声をかけようとしたその時・・・


ヴァッツ「マーク!行くぞ!」

彼は早々に教室を出て行ってしまった。

マークは彼が力を出してその場から去ったのが気になっていた。
ひょっとしたら今朝「任務」という言葉を使ったのには意味があるのかもしれない。
そう考えると急いで後を追った。


七瀬とジャックはまだ教室にいた。
帰る準備を始めている。

暫くまたこの生活がなくなる。
ある種の不安にジャックは襲われていた。

七瀬 「じゃ、ケーキはヴァッツ君に任せて私たちは駅前のほう歩こうか」
そう言ってニッコリと微笑む。
その顔がジャックを安心させた。
七瀬がいるから自分はまだ人間でいられるかもしれない・・・
そう思えた。

2人はまだ教室に残っている生徒たちに別れの挨拶をして学校を出ていった。



マーク 「ようやく追いついた。」
    「んで、任務ってのはなんだ?」

ヴァッツ「クリスマスに相応しいケーキを教えてくれ!」

マーク 「結局ケーキかよ!目の色変えて走って行くから何事かと・・・」

言いかけたとき自分たちを見る影があることに気付く。

「久しぶりだな。」

ヴァッツ「ナガレ・・・どうしたんだ。」

ナガレ 「学校が冬休みに入ると聞いてな・・・これを。」

そう言うと彼は二枚のメモを渡す。

ヴァッツ「なるほど・・・分かった。」

マーク 「? なんだ?」

ヴァッツ「この件は後回しでいい。それよりもケーキだ!」

マークは大したことではないのだろうと判断するとヴァッツと一緒に商店街のほうへと向かう。


ナガレ 「さて・・・・」




ジャック「プレゼント?」

七瀬  「うん・・・もうすぐ受験だし、やる気の出るおまじないみたいな意味で・・・」

彼らはクリスマスに集まってはいたが、プレゼントの交換は今まで一度もやっていなかった。
互いの関係上プレゼントを贈る相手は決まっていたからだ。
それなら全員で集まる意味を失うということでプレゼントを禁止していた。

ジャック「別にいいけど・・・何が欲しいんだ?」

七瀬  「・・・・・・・ピアス。」

ちょっと意外だった。
優等生の彼女が欲しがるとは思ってもいなかった。

ジャック「穴開けるのか?ちょっと反対・・・だな・・・」

七瀬はその言葉を否定する。

七瀬  「違うの!マグネット式のやつが欲しいの。」

    「それにあの高校・・・そのへんゆるいからずっと着けていられるし・・・」

彼女は自身の言葉に気付いていない。
人である彼からの贈り物・・・それによって繋ぎ止めていたいという想い。

2人は色々な店を見て歩く。
七瀬がふと時計に目をやると夕刻を回っていた。

七瀬  「ちょっと時間取りすぎちゃったね。早くしないと・・・」

ジャック「家族には言ってあるのか?今日のこと?」

七瀬  「うん。今年は女の子同士だから遅くなるってことにしてある。」

にしても電車は限られている。このままだとあまり長い時間を過ごせそうもない。

ジャックは、そのへんを考慮しているときにふと目に入ったピアスを見た。

シンプルなデザイン。
薄いピンクにシルバーの縁取りがしてある。

ジャック「これ・・・いいんじゃないか?」

七瀬  「ジャックがそれでいいんなら。」

2人にはそれ以上の言葉は要らない。

そうして彼らはマークたちの待つマンションへと向かう。





マーク 「さっきのメモはなんだったんだ?」

ヴァッツはケーキをじっと眺めたまま聞いていない。

マークは苦虫を噛み潰したような表情でやれやれと思った。

彼が表の世界に生きてこれなかったことを知らなければ怒っていたであろう。

そしてヴァッツはちょうどメモのことを思い出す。

ヴァッツ「あぁそういえば・・これな。」

一枚のメモをマークに渡す。

マーク 「A県の山の中?・・・ここに何があるんだ?」

ヴァッツ「炎の使い手と言ったところかな?」

マーク 「どういうことだ?」

ヴァッツ「会えばわかるさ。冬休み中頑張って修行してこい!」

マークは「そういうことか」と納得した。
あの胡散臭い鳳龍会の連中が自分たちの生活を邪魔しないでいる証拠。
冬休みの間だけ・・・そこに安堵した。


そうしてる間に七瀬たちが入ってくる。

ヴァッツ「遅いぞ!ケーキが無くなったらどうするんだ!」

ジャック「無くなるわけねーだろ!なんでそんなに執着するんだよ。」

マークがジャックの耳に何かがついてるのに気がつく。

マーク 「どうしたんだそれ?」

七瀬  「私からのプレゼントだよ。イヤーカフス。」

マーク 「ふ〜ん。仲のよろしいことで・・・」

マークはちょっとルール違反なんじゃないかと思ったが、今年は状況が状況だけに
まぁ仕方がないかと思う。

ヴァッツ「それよりも早く・・・・」

ヴァッツが言いかけたところで七瀬が制止する。

七瀬  「ま〜だだよ。ちゃんと乾杯してから・・・ね。」

    「じゃぁ早くグラスとか用意してくださ〜い。」

準備に取り掛かっているというのにマークは壁際に寄りかかっているだけだ。
なんだかその姿勢もダルくなってきたので、彼は地べたに座り腕を頭の後ろで組んだ。

ジャックが準備しながら「おまえなぁ」とぼやく。
ヴァッツは黙々と作業をこなしている。

そして七瀬がマークに近づいた。

七瀬  「これ・・・・」
そう言って一つの包まれた物を渡す・

マーク 「?」

七瀬  「私からじゃないよ」

答えは一つしかない。
マークは目を見開いた。

マークは包みを開けて中を確かめてみる。
一つのチョーカーが入っていた。

七瀬  「真樹ちゃん、あんまり外に出れないのに無理して買ってきたみたい。」

マークは言葉がなかった。

七瀬  「離れてても繋がってるんだね。2人は。」


ヴァッツとジャックが準備が整ったことを告げた。
マークは腰を上げようとしなかった。
それはふてくされているからではない。
今あるこの気持ちから自分を動かせなかったからだ。

ジャックはその様子を見て「あいつはあのままでいいよ」と告げる。
ヴァッツはそれが理解できなかった

七瀬  「じゃぁいいね。乾杯いくよ!」


一同  「メリークリスマス!」

七瀬の言葉を思い出しながらマークは一人微笑む

「そう・・・かもな。」



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〜続く〜


第十二話


A県の某山中。
マークはそこにいた。
山はすっかり雪景色に染まっている

「ったく!なんでこんなところに住んでるんだよ!」

一般人が近づくことは無いとはいえ険しい冬の山である。
詳しい道のりが記したメモがあるとはいえ、いつ遭難しても不思議ではない。
最低限の荷物だけを持ってマークの向かう先は・・・




同じ頃ジャックはK県の山の中にいた。

「あいつに比べりゃこっちは暖かくてラッキーだったかな?」

とはいえ彼が居る場所も冬山には変わりない。
ふっとため息を吐くと彼は呟く

「今年はここで年越しか・・・」

別に蕎麦や紅白が必要なわけではない。
あたりまえだったことが遠くに行ってしまった・・・そのことがどうしてもよぎる。



第12話 「導く者 (前編)」



メモに記載されている場所へとようやく辿り着く。

「??・・・この辺のはずだけどな?」

マークは立ち止まって辺りを見回すがここまでの道のりとこれといって変わった様子はない。


仕方ない・・と、彼はもう少しだけ歩く決意をする。

そしてその一歩を出した瞬間


辺りの景色が一変した。

雪などかけらも無い。
しかし春でもなければ秋でもない。
ここには季節感がかけらも無かった。

結界の中。
つまり自分が今一枚の壁の向こうに来たことを彼は認識した。

「なるほど・・・そういうことか・・・」
マークは理解すると更に歩を進めた。


数日前

マーク 「なんでこんな時期にわざわざそんなとこ行かなきゃならねーんだよ」

ジャック「受験勉強のことも考えると今ははずせないぜ?」

まくしたてる2人の言葉をうんざりするほど聞きながらヴァッツはそれでも答える。

「もしものときを考えろ。これから新しい生活に向かうのなら尚更だ!」

それにしたって、と2人はまだ駄々をこねる。
ヴァッツは自分の過去を踏まえながら彼らを説得する。

「制御するということだけでいい!それがなければ・・・」

力を制御できなければ周りを巻き込む。
もしもが起きたときのための保険。

2人は力の出し入れ自体は簡単に出来るもののコントロールという点ではまだまだだった。



マーク「な〜んか丸め込まれた感は否めないけど・・・」

どこかに誰かがいるはずであると思いながらマークは歩き続ける。

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その姿を一本の木の上から見ている男がいた。
白髪のオールバック、鼻の下に髭を生やした男。


彼はマークの姿を確認すると己の掌に炎を灯す。


歩き続けるマークの頭上に突然三つの炎の塊が飛んできた!


マークはそれに気付くと咄嗟に身をかわす。

気付くのが少し遅かったせいで彼は体制を崩してしまった。
立ち上がりながら彼は炎の飛んできた方向に目をやる。

マーク 「ちぃっ!どこだ?」


その瞬間マークは自分の背の方に僅かな気配があることを感じた

一人の男が静かにしゃがんでいる。


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マークが振り向きその姿を確認した瞬間・・・





「炎舞(えんぶ)!」

その男はそう叫ぶと両の手に炎を灯し、立ち上がり、横向きに一回転する。
マークはその攻撃を喰らい向こうの木に叩きつけられた。





ジャックが結界に入ると同時に思い出していた。
覚醒のときもこんな場所だったことを・・・全てがあの日に一変した。
そんなことをぼんやりと考えていたときに声がする!

「闇力(やみりき)覇王拳!」

突如黒い巨大な拳が飛んでくる

ジャックは必死にその攻撃をかわした。

ジャック「な、なんなんだ!」

攻撃されるなんて想定していなかった。
どんな攻撃だったかを改めて確認するために振り返ると、巨木が中心部から折れていた。

驚愕するジャックの背後で声がする


「こんな子供だとはな・・・」





叩きつけられたマークが起き上がり男の姿を確認する

「ワシの名はサクラ・・・あらためてよろしくな」

打撃を喰らった胸を押さえながらマークは立ち上がり、そして不思議に思う。
攻撃されたときとは違って今の彼に敵意はなかった。

そのことに安心感を覚えた彼は、自ら握手を求めた。
「いててて・・・なら攻撃するなよ・・・」

サクラは「ふふ・・山を降りるまでの間に今の技を覚えてもらうぞ」
そう言って彼の手に触れる

マークはその手に大きな温もりを感じた。





「私の名はオウレン。よろしくな。」
ジャックと対峙する男がそう名乗る。

ジャック「俺が望んでいるのは力のコントロールだぜ?」
いきなり攻撃されたことが不服だったせいか語気が荒い。

そんな彼の態度も見透かされたようにオウレンは続ける。

オウレン「技を持って力を制するということだ。」
     「いきなり力をどうこうしようとしても無理だろう・・・ましてやコアではな・・・」

ジャック「・・・・・」




マーク「なんでわざわざこんな所に住んでるんだ?」

サクラの住処となっている山小屋へと入り荷物をおろすとマークは聞いた。

サクラは理由はあるが知る必要は無いと質問をかわす。
これからの修行内容や雑談を交わしているうちにやがて夜になった。

サクラ「外で話そうか・・・」
彼は少しだけ”覚悟を決めた顔”を見せそう言った。

マークはそれがなんなのか理解できなかったが、指示に従う。

外に出てみると満天の星空だった。

「うわー」と思わず唸ってしまった。田舎暮らしであるとはいえ夜空を見上げることなどない。
マーク「星ってこんなに綺麗だったか?」と素直に感動していた。

サクラは焚き火を始めそこに腰を下ろす。

サクラ「3人・・・見つかったか・・・」

火を見つめ視線を変えずに彼は呟いた。

マークも火の前まで来て腰を下ろす。
サクラの思いつめたような表情に真剣に話を聞く気になっていた。

サクラ「炎、水、闇、・・・残りは後二つ。」

マークは黙って彼の声に耳を傾ける。



サクラ「・・・しかし・・・最も苦労するのは・・・・」






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ジャック 「 闇の中心体 ?? 」


オウレン 「そうだ・・・」

ジャックは経験の無かった焚き火を見て、薪をくべるのが面白くそれを続けながら話を聞いている。

オウレンがここからは真面目な話だから真剣に聞くようにと促す。


オウレン「元々コアが一つであったことは聞いているな?」


ジャック「あぁ聞いてるよ。」「それがバラバラになったんだろ?」

オウレン「そうだ。元々一つの究極魔体が分断・・・その一つ一つがコアだ。」

ジャック「で?闇の中心体ってのは?」

オウレンは更に厳しい表情で続ける。

オウレン「究極魔体は、再現可能ではないかと言われている。」
     「そのとき本体となるコアが・・・そう・・・」

     「闇のコアだ!」

ジャックはそんなことを突然言われても・・・という程度の認識しか持てなかった。





サクラ 「復活すればこの国は滅びる可能性すらある。」






ジャック「俺がそういった方向に動かなければいいだけの話じゃないのか?」

オウレンは少し悲しい目で彼を見た。

    「お前を殺し、その中からコアを取り出せばそれで済む可能性もある。」

ジャックはこのとき初めてコアを持っていることを認識したかもしれなかった。

オウレン「鳳龍会の目的の一つにコアを全て管理下に置くというのがある。」
     「そうすることによって、再生を防ぐのが理由だ。」

あの胡散臭い連中・・・鳳龍会のことが少しだけ分かってくる。

オウレン「残り二つのコアは所在が分からない・・・」
     「しかし・・・もし・・・そこに邪悪な意思が介在すれば・・・」

ジャックは賢い子供だった。
そこまで言われてここに来た目的がハッキリする。

ジャック「なら・・・そいつらを蹴散らせばいい!」

     「そのための修行か・・・」

語気は明るいが心は沈んでいた。
思わず片手で顔を覆ってしまい表情を隠してしまう

オウレンはここで言ってよいものかどうか迷っていたが、あえて口にする。


「最も心配されるのは・・・闇のコア・・・」

「つまりお前自身の・・・暴走だ!」


オウレン「鳳龍会から報告は受けている・・・覚醒時にすでに暴走していたこともな・・・」







サクラ 「分かるな?マークよ!」







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「そのとき止められるのは・・・」





今回のイメージイラスト 今回のイメージイラスト(闇の中心体?)

〜続く〜


第十三話

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img065 posted by (C)無縁


サクラ 「そのとき・・・止められるのは・・・」




マーク 「止められるのは・・・」



覚悟を決め・・・しかし悲しい瞳で彼は言う


    「俺以外・・・いねぇ・・・」





導く者(中編)




気がつけば年は明けていた。
マークもジャックも「技」どころか、最低限の力のコントロールという修行を続けていた。

サクラ 「もっと気を落ち着けんか!」

マークは性格上こういった一からの修行に向いていない。またそのことを自覚していた。

マーク 「てっとり早く技の練習に入ろうぜ?」

サクラの培ってきた炎の力・・・その技術はやがて舞という形の武術を形成する。

サクラ 「炎舞はな・・・心を静かにし、その平静の中で『舞う』のだ。」
    「形ばかり真似ても意味は無し!」

マークは自分にとって似つかわしくない技の形であると思っている。

マーク 「な〜んか・・こう・・一撃必殺的な技のほうがいいんだけどなぁ」

その姿勢にサクラは叱咤する。

サクラ 「バカモノ!」
    「何のためにこういった技を作ってきたかは説明しただろうが!」


マーク 「わ〜かってるよ。・・・でも人には向き不向きがあるんだぜ?」

サクラは「まったく」と言いマークの態度に呆れている。





オウレン 「ふむ・・・少しはマシになってきたようだな。」
岩に腰を置きじっくりと修行の様子を見つめながら彼は言った。

ジャック 「毎日毎日同じことやってるんだ・・・そりゃマシにもなるさ。」

腰を落として構える、利き手は腰の脇に置き闇力を集中、そして反対の手で視界を覆い獲物を定める。
たったこれだけの行為を毎日繰り返している。
オウレンの支持によって集める闇力の強さを変える。・・・これがコントロールの源となる。

ジャック 「どっちかっていうと俺は、繊細で華麗な技が似合うと思ってたんだけどなぁ・・・」

オウレンがこのスタイルを選んだ、いや選ばざるを得なかったのには理由がある。
しかしそれは、ここで今告げるべきことではなかった。

そしてジャックはここに来て、そして彼と会って改めて思った疑問があった。

ジャック 「なぁ?・・・・」

修行を解くジャックに目をやるオウレン。

オウレン 「?・・・どうした?」

ジャック 「前から思ってたんだけど、一国を滅ぼす力っていう話・・・」

オウレン 「それがどうかしたのか?」

ジャック 「400年前・・・いやそれ以上昔からってコトはさ」


     「今と国の単位違うんじゃないか?」


オウレンが軽く鼻で笑う

オウレン 「フッ・・だとしても脅威には変わりあるまい?」

そりゃそうだけど、そう思いはした・・・だがジャックは続ける。

ジャック 「いや、あんたらみたいのや鳳龍会の連中がいるならさ、なんとかなるんじゃないのかって・・」

オウレンは立ち上がり空を見上げながら話を始める。

オウレン 「なんとかならない可能性の方が高いかもしれんのだ・・・」


彼の目にはそのときの光景が焼きついていた。

     「400年前・・・この目でその力を見た者としてはな・・・」





マーク  「よ・・・400年も生きてんのかよ・・・」

サクラ  「ナガレめ・・・なんの説明もしておらなんだか・・・」



ジャック 「そういや400年前に事件があったとか何とかって・・・」
     「てか、なんでそんなに生きれるんだ!!」

オウレン 「コア以外にも『こういった力』を持つものは数多くいる」

     「そしてその者達を『闇の力を持つ者』と呼ぶ」

ジャック 「そういやコアの残骸みたいなこと言ってたな・・・」

ジャックがまだ何も知らされていないことを悟ったオウレンは続ける
オウレン 「闇の力を持つ者・・その本質はコアから剥がれ落ちた力の断片を手に入れた者たちだ。」



サクラ  「そしてこの『闇の力を持つ者』は、覚醒した後『力』の円熟期に入るとそれ以上歳をとらなくなる。」

マーク  「じゃぁ・・あんたらは・・・」

サクラ  「ワシとオウレン、ブンゴ、そしてナガレ・・・」

     「この4人は400年ほどの昔から生きておる。」

マーク  「!!」



ジャック 「そんなに生きてて飽きないのか?」
無邪気な質問だった。

しかしオウレンはその質問に答えなかった。
彼に何か思うところがあろうことを察したジャックは質問を変える。

ジャック 「400年前の事件・・・ってのは?」

オウレン 「五つのコアが一つの地に揃ったのだ。」

ジャック 「!!!・・・究極魔体・・・」
オウレンに教えられた言葉が出てくる。
しかし彼は首を横に振った。

オウレン 「そのときコアの持ち主達は争っていたよ・・・」

     「そしてそのうちの炎、水、闇の持ち主は死んだ。」




サクラ  「いや、肉体を失ったと言うほうが正しいかもしれんな。」

マーク  「・・・・・・そのときに見たのか?」

サクラ  「あぁ・・・肉体が崩壊するときに・・・黒い玉のようなものをな・・・」




ジャック 「残りの2人は?」

オウレン 「分からん・・・最後の爆発が起きたとき・・・その場にいたのはわしら4人だけだ。」

ジャック 「爆発だって?」

オウレン 「コアの力だろう・・・壊滅的な状況だった。」




サクラ  「なにしろ・・・あれだけで3万人以上は死んだと言われておる。」
     「わしらの家族も全て死んだ・・・。」


マーク  「・・・・・・・・」


サクラ  「忘れることなどできはすまい・・・。」

      「阿鼻叫喚の地獄絵図・・・そして・・・」

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     「そして・・・麓からは見えるはずの無い・・・」




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     「あの悪魔の姿を!!」






ある地で「任務」を続けるナガレが悲しい目をしながら呟く

ナガレ  「あのときをもってしても・・・コアは本当の力を出していない。」




サクラ  「ワシらはあのときコアの持ち主から遺言を頼まれておる。」

オウレン 「あの時代に・・・変わった者であったな・・・」




サクラ&オウレン  「人として生きられるように・・・と」









現代風の若者・・・そんな言葉が良く似合う男が街を歩いている。
礼儀をわきまえず、ただ己の望むように生きている男。
一般的な社会の枠から外れたその男をナガレは観察していた。

ナガレ  「コアが活動を停止していたなら『闇の力』は増えるはずが無い。」

     「とくに・・・炎属性と闇属性は・・・なのに・・・なぜ!」




鳳龍会本部の一室
シロー  「やはり・・・伝播していると見るべきだろうな」

ヒデキ  「ここ2,3年の増え方はあまりにも急激だ・・・」
統計を見ながらヒデキは苛立ちを隠せないでいた。

シン   「だからこそ・・・やらねばならない。」
自分の手元にある企画書を眺めながらシンは言う。

ヒデキは、戸惑う・・・アレが本当に必要な行為かどうかを。

シン   「最低限の社会秩序の維持・・・ひいてはこの国のため・・・」

シロー  「場所の選定は済んでいるのか?」

シン   「えぇ・・・ただ・・・このままでいくと、参加者が増えすぎますね。」

シロー  「仕方あるまい・・・それと・・・」

シローの言葉の先をヒデキは理解した。 ヒデキ  「まさか・・・コアまで参加させる気か!」


シンは表情を変えずに言う。
シン   「勿論・・・・それも目的の一つですから。」






ジャック 「なんかよく分かんなくなってきたな・・・色々聞きすぎて・・・」

オウレンは仕方が無いといった表情でジャックに言葉をかける。

オウレン 「今は目の前の修行に集中していればよい・・・今はな。」




マーク  「んじゃ鳳龍会ってのは、なんなんだ?」
改めて疑問に思うことである。

サクラ  「ワシらはあの場でコアの脅威をこの目で見た。」
     「あのときワシとオウレンは力そのものの伝承を・・・」



オウレン 「そしてブンゴとナガレの兄弟はコアの行方を追うこととなった。」
     「その過程で、元々あちこちにあった似たような連中を集めて作ったのが鳳龍会だ。」

ジャック 「似たような連中??」

オウレン 「ワシらが接触する以前からコアそのもの伝説は各地にあったのだ。」

     「そしてそれを追う連中もな・・・」



サクラ  「一つ言っておかねばならんことがあるな・・・」

     「鳳龍会の連中は全員『闇の力を持つ者』達だ。」


マーク  「?じゃぁ・・あのヒデキっておっさんや、チヅルさんも?」

サクラ  「そうだ。」

マーク  「しっかし・・・もう少しまともな呼び方は出来ないのかよ・・・よりにもよって・・」



サクラ  「この力はな・・・どの属性にも関わりなく・・・・」

マーク  「?」

サクラ  「人の心を闇に引きずる力を持っている」

マーク  「!」

サクラ  「鳳龍会に属するものは心が侵食されていないことが条件となる。」




ナガレとは別の地でヘイジは同じ任務に就いていた。
そこにもやはり無秩序な一人の男がいた。

白昼堂々街の中で喧嘩をしている。いや、正確には一方的に暴力を振るっているだけだ。
そしてその理由は目が合ったから・・・

ただそれだけの理由で一人の青年に暴行を加え続けている。





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「また一人・・・覚醒しやがった!!!」





マークはここまでの話を聞いて「自分は何を考えるべきか」を思っていた。
結局コアだの何だの言われても今はただ一人の子供に過ぎない。

それが分かると考えるのも面倒になって仰向けになり空を見上げた。


突如マークのその視界に異質なものが映りはじめる。




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img066 posted by (C)無縁

「ア、アレは!!!!」

〜続く〜


第十四話


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マーク 「あ、あれは・・・!!」



第十四話 導く者(後編)




見覚えのある光景。
力の覚醒と暴走・・・そして意識を取り戻したあのときに見た。

そう・・・”あれ”がいくつも空に浮かんでいる。


後になってヴァッツが持ってきた報告書。
そこに要約されていた内容は
@覚醒時のエネルギー余波のぶつかり合いによるもの。
A結界内で逃げ場を失ったエネルギーの向かった方向。
B二重に張られた結界内で行き着いた先。
これらが全て重なり合わさった結果・・・あの場所に空間の歪みが生じた為。

偶然が重なり合ってあの場所にあれが生まれた。

マークはそのことを知っている。
だから・・・そうだから今目の前にあるこの光景は異常だった。


サクラ  「来たか・・・」
彼はそれを見ても動じることはなかった。
そしてマークに「下がっておれ」と言い臨戦態勢に入る

空間はかつてのそれと同じく黒い塊を産み落とそうとする。

それが堕ちてくる瞬間を狙ってサクラが右手の炎を大きくする。

その炎の形を大鷲の翼のようにすると彼は空中へと飛び上がる

サクラ  「翔の参”支翅(しえん)”!」

彼はその翼のような炎をいくつもの空間の歪みにぶつけ炎で薙ぎ払う。。

黒い塊は形を成す前に焼き消えてしまった。

しかし空間の歪みはまだまだ残っている。

サクラは着地すると同時に腰を落とし両手を頭の上に重ね、それを両脇に落とすと同時に力を入れる。

サクラ  「翔の弐”弥砲(びほう)”!」

両の手を突き出すと同時に無数の炎の塊が空へと向かっていく

轟音とともに次々と塊たちは落とされていった。


マークが自分の背後に気付く
産み落とされた魔物・・・打ち漏らしがそこにいた。

サクラはマークの元に向かおうとしたその瞬間



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マークは炎の手刀で魔物を払う。そして

「こう・・・やるんだろ!?」

マークは体を捻りもう片方の手刀を浴びせる。

それはサクラが一度だけ見せた炎舞そのものであった。

サクラは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
一度だけ、そうただ一度しか見ていない技をコピーしたマーク・・・

サクラがあっけにとられている間にもまた次々と空間が歪み始める。

マーク 「おっさん!まだだ!」

サクラはその言葉で我に返る。

サクラは「これからは師匠と呼べ」そう言うと口元に僅かな笑みを浮かべた。

サクラ 「弟子に値しないかもしれんと思っておったが・・・」




ジャック「ちょっと待てよ!あれは・・・!!!」

オウレン「呆けている場合か!くるぞっ!」

そうしてジャックに教えた型を構える。
視界を遮ることにより「敵を感じる」・・・そうして獲物を定めたオウレンは

「闇力!」
彼の右手に闇の力が集中する

「覇王拳!!」
最初にジャックが見たときよりも遥かに巨大な拳が上空へと打ち出される。

魔物は「生まれ始めて」いた。そしてそこよりも僅かに手前まで巨大な拳が到達したところで

「砕!」

拳は無数の闇の塊に変わり分散する。
いくつもの闇の塊が魔物へと攻撃を加え次々と撃破してゆく。
それをかわし「生まれた」魔物たちはオウレンの直線状に堕ちてくる。

オウレンはそのときすでに構えを解いていた。そして彼の右手にまた力が集まり始める。

「覇王!」
その掛け声で魔物たちはここが危険であることを悟る

が、しかし既に手遅れであった。

「滅殺拳!」
彼は力の集中した右手を前に突き出すと同時に自身も力と共に前進する。
その通り道に魔物は存在しなかった。

「す、すげぇ・・・」ジャックは素直に感動していた。
あの時は自身の力に怯えて何もできなかった。魔物がここまで簡単に倒せるということに今改めて驚いた。

オウレン「力のコントロール・・・その源となる技だ。」

     「ここまで教えたことが生かされる・・・さぁまだまだ来るぞ!次はお前の番だ。」

ジャックは静かに息を飲んだ。




マーク 「なぁ・・おっさ・・じゃなくて師匠?」
彼は聞かずにはいられなかった。
なぜこんな現象が続くのか。魔物たちは雨のように次々と生まれ堕ちてくる。
サクラはその気持ちを察知し簡単に答える。
    「ここは”そういう場所”なのだ」と。
マークは納得がいかなかったがそれを考えていられる現状ではない。
すでに3匹の魔物に囲まれている。

サクラがチャンスであると判断した。
    「次の段階だ!相手の立ち位置を感じ取りステップを踏んで炎舞を・・」
言い始めたときにマークはすでに右手から炎の翼を出していた。
サクラが言葉を掛ける間もなくマークはその炎で魔物を薙ぎ払う。

マーク 「おぉ!出せた!」
独り言のように呟くマークの姿を見てサクラは驚きを隠せない。

確かに・・・確かにこの状況では彼が今使った技のほうが早い。
しかしそれ以上に・・・・

サクラはある種の期待とそして・・・それ以上の恐怖を感じていた。






七瀬 「い〜〜の??」

七瀬の部屋で勉強する2人。もう一人は・・・

真樹 「何が?」

七瀬 「マークに嘘言って後悔してないの?」
   「冬は受験合宿があるから帰ってこれないなんて言って・・・」

真樹 「あ〜そのことかぁ。」
勉強する手を少し休めて彼女は答える。
   「いいんだよ。前々から決めてたことだし。」

傍らにあったコーヒーを飲みながら七瀬が返す。
七瀬 「前々から?」

真樹は少し伸びをしながらゆっくりと答える。
   「そうでも言わなきゃ集中して勉強してくれないでしょ?マークは。」

七瀬は目を背け少し悲しい表情を浮かべた。
   「とは言っても、今はそれどころじゃないんだけどねぇ・・・」

2人は窓の外に視線を向けた。そこに何かがあるわけではないのに・・・。

真樹 「修行・・・か・・・」




彼らの修行は続く。
サクラもオウレンもこれを良い機会と考え魔物退治を2人に預けた。

魔物は次々と彼らへ襲い掛かる。


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一方ジャックは・・・



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オウレンにとっては遊び心だった。
ただ少しだけジャックの心にやる気を出させたかっただけ・・・





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事が終わったがジャックは固まったままだ。
オウレンは彼を呼ぶが反応が無い。

ジャックの意識がどこにあるのかはわからない。 止むを得ず彼に当身をくらわせ意識を止める。
オウレンは何とも言えない感情に包まれていた。







冬休みも終わりに近づいていた。
彼らの生活を壊さないことが前提だったため修行は一旦終了を迎える。

結果的には魔物退治のような実践は一度だけだった。

サクラもオウレンもその一度だけをもってある程度の判断をした。


そしてこれで終わりでないことも・・・。



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「そのとき止められるのは・・・」





〜続く〜


第十五話



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マークは夢を見ている。
幼い頃から共に育ってきた親友・・・
若菜真樹

彼女との出会いはもう思い出せない。

側にいることが当たり前であり、それが日常だったから。

いつ?どこで出会ったのかというのは、もうどうでも良いことだった。

コアの覚醒後生活が一変した。

そんな中でマークは別の意味で”誰よりも日常を取り戻したかった”に違いない・・・



第十五話「受験」




ここは、この街にあるホテルの一室。
そこに2人の男が向かい合い話をしている。
一人の男は髪を剃りあげている。この男の名はムラモト。
彼はある宗教団体の幹部でもある。

ムラモト「では、ゴトー。3ヶ月前に提出いただいた例のプラン・・・実行に移すということで。」

ゴトーと呼ばれるガタイのよい男が答える。
「許可が下りたなら手配するまでだ。準備はぬかりなくな!」

ムラモト「分かっております。それでは・・・」
そう言ってムラモトは急ぎ早にホテルをあとにする。

誰もいなくなった部屋でゴトーは静かに笑みを浮かべた。





放課後の教室。
マーク 「さて、いよいよ明日が受験か。」
帰り支度をしている最中に担任がマーク達を呼び止めた。
それは、受験に関する注意事項を記したプリントを渡すためだった。

それを4人が見る。
ジャック「ふ〜ん。学校ごとに教室が分けられるのか。」
七瀬  「受験までは厳しい学校ってのは、本当みたいだね。」

マークが一人憤慨している。
「な、なんだ〜〜〜こりゃぁぁぁぁ!!!」

ヴァッツ「どうしたんだ?」

七瀬  「これかぁ・・・」
ジャック「教室への出入りは担当に許可が必要。そんでもってぇ〜」

マーク 「昼食時、およびどの時間帯においても他校の者との接触を禁止する・・・だぁぁぁぁぁ?」 

七瀬  「教室も各学校ごとに分けられてるみたいだし、お手上げだね、こりゃ」

マーク 「なんでだぁぁぁぁぁぁ!!!」




翌日

「では、開始まではゆっくりしてください。但し教室からは出ないように。」
そういうと担当のものは、一度席を外した。

七瀬  「なんか不思議な感じだね。教室に机と椅子が四個しかないなんて」
ヴァッツ「結局ウチの学校からは俺たちだけだったんだな。」

マーク 「あの辺から通うには遠すぎるんだよ。この学校は・・・ん!ジャック?」
マークが目をやるとジャックは単語帳を開いているところだった。

マーク 「ここまで来てあがいてんのかよ?」

ジャック「仕方がないだろ?結局冬休みは修行で終わっちまったんだ。焦りもするよ。」

ジャック「ったく!」
彼は愚痴りながら先日のことを思い出す。

それは、ヴァッツが提案してきた裏口入学のようなものだ。
コアを持つ者への監視は怠れない。
そのこともあって彼らは同じ学校へ進ませるべきであるという意見は、鳳龍会内部にもあった。
それ故に圧力を使って、彼らを(七瀬を含む)受験なしでこの高校へ入れるというものである。

しかし、マークはそれを聞いて怒ってしまった。
ここまでの努力が水の泡になるからだという。
それとは別に受験によって真樹との再会も楽しみにしていたという事実もあるが・・・。


ジャック(あの提案を飲んでりゃこんな苦労しなくても済んだんだけどなぁ・・・)
口に出せばまたマークが怒るので、彼は言葉を飲んだ。

それから暫く経っても試験は開始されなかった。
もう規定の時間は過ぎているのに始まる様子はない。

直接ではないにしても他の教室もまだ始まっていないことは伝わってくる。
ただ場が場なだけに騒がしくなることはなかった。

七瀬、マーク、ヴァッツはくつろいでいる。
ジャックもいつまで経っても始まらないので少し席を離れてみた。

ジャックがふと窓の外に目をやると何か異様な光景が目に飛び込む。
「なんだありゃ?」



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他の3人も外を見始める。




そこには、明らかに宗教関係と思われる団体とこの学校の教師たちが押し問答になっている様子が見えた。

七瀬  「こんなところにまで・・・」

ヴァッツ「?・・・何なんだ・・・あれ?」

七瀬  「キリク真光教・・・だったかな?いわゆる新興宗教よ。」

ジャック「その宗教がなんでこんな所にいるんだ?」

七瀬  「知らないわよ。ただウチの地元の方にも地震が多いからどうのって言って施設建てたりしてるし」
    「この間の選挙で負けてからやたら活発になってるって聞いてるよ。」
    「大方なんかイチャモンつけてるんだろうね・・・。」



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マークはただじっとその様子を見ていた。


ジャック「やれやれ・・・これじゃぁいつ始まるか分かったもんじゃないな・・・。」



そのときマークは僅かに力を使った。

感覚が伝わる・・・その程度の力・・・






マークは窓から離れ「もうすぐ始まるよ。」と告げた。

七瀬はその意味を理解できなかったが、ジャックとヴァッツは気付いていた。


しかし今はそれを伝える必要もないと思い心の中にしまいこんだ。



全ての日程を終え彼らは帰り支度を始めていた。

マーク 「あ〜あ〜結局会えず終いか・・・」

七瀬  「マーク!外!外!」

ん?と慌てて窓へ駆け寄る。
丁度真樹達の学校の生徒が出てきたようだ。
彼女らは、帰りの専用バスがあるのでそれに乗り込む最中だった。

そして彼女が校舎から出てくるのが確認できた。
他の生徒に急かされている様子が伝わる。

今大声を出せば振り向いてくれるかもしれない。
でもそれをするわけにはいかなかった。

結局壁一枚隔てたこの距離が、今の自分たちの距離なのか・・


そう思ったとき真樹が足を止めるのが目に映る。


そして彼女は迷うことなくマークのほうを振り返りただニッコリと微笑んだ。


マークは口元に笑みを浮かべ「うん」と頷く。


それを見ていた七瀬は口に出せば茶化しているように聞こえてしまうだろうと思い

心の中で「通じてるんだな・・・」と呟いた。


こうして彼らの受験は終わる。
普通にみても人生の分かれ道の一つ。

しかし彼らにはそれ以上の意味があった。

新しい日常への第一歩。
よくわからないうちに背負わされた宿命とは別の・・・


そう全く別の・・・希望への一歩。



















「絶望した。」

例の宗教の教祖を名乗る人物が言う。

「我々のことを信じないものにも光は与えられねばならん。」

「そのために彼らのルールに従い選挙にも出たが、結果はこれだ・・・」

ムラモトが答える。
「例の計画を実行に移します故しばしお待ちを」

そしてその隣にいるゴトーが続ける
「必ずやお望みの成果をあげてみせます。」


教祖やその付き添いのものが退出するとムラモトは写真を取り出す。
「3ヶ月前君がこの計画を立てたときに受けた依頼だ。」

ゴトー 「そういやそんな話があったな。」
    「あれ以来情報がなかったから忘れていたが・・・」

ムラモト「スポンサーからの依頼でね。・・・ただ条件がついている。」

写真を確かめながらゴトーは尋ねる「なんだ?」

ムラモト「目的による殺害は許されないそうだ。あくまでその過程の一つとして・・・」


ゴトー 「この四人を殺せ・・・と」


ムラモト「そういうことだ。例の計画との帳尻は合いそうだ・・・あとは君たち次第だよ」

ゴトーは「分かった」と言うと作戦のためということで足早に帰っていった。





ホテルに帰るとゴトーは掃き捨てるように言う

「ふん!日本人めが!」


「これが終わればお前らもまとめて消してやる!」



机に向かいながら彼は全ての計画を練り始める。
彼は笑うことを抑えられなかった。







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「クックックックックッ・・・・・」





今回のイメージイラスト(やれやれ)

〜続く〜


第十六話



明かりが消えたような部屋。
その部屋の中央でチヅルはある人物と話をしている。

???「じゃぁ・・・会えるのですね?」


チヅル「ええ」
   「そのために彼らは苦しい修行にも耐えましたから。」

   「ただし彼らの気を緩めないためにも当日までは伏せておきましょう。」

優しくもどこか悪戯めいた口調で彼女は言った。




場所は変わって鳳龍会本部

シローが報告書に目を通しながらシンに問う。

シン  「なんとも言えませんね。サクラ氏、オウレン氏の見解は・・・」

目を瞑り深く息を吐き出した。

シロー  「チヅルの計画のおかげで今は環境が整っている。しかしいずれは・・・」


ため息とともに彼は答える
シン   「ええ・・いずれは・・・・」



第十六話 「覚醒 act.2 白と黒」




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ジャック 「納得いかねぇーーー!!」
教室に彼の声が響き渡る。
が、すでに自由時間となった教室ではさほど問題にはならなかった。

受験内容と模擬回答それによる試算でジャックはマークに負けた。

マーク 「まぁ・・・実力の差ってやつ?」
"無邪気"まさしくその言葉が似合う表情でマークは答える。

七瀬  「ありゃりゃ・・・ジャックが四人の中で一番下だったか・・・」
    「まぁ合格圏には達してるしいいんじゃない?」
いつも通りの笑顔でジャックに慰めの言葉をかける。

「なんで俺が」と肩を落としている最中に担任が教室中の生徒に言った

「規定時間までは自由にしてていいぞ。」
「もうこの校舎ともお別れになるんだから何か思い出作りでもしたらどうだ?」

そう言って担任が教室から出ると他の生徒も一斉に教室から出て行った。

僅か3年といってもそこには過ごした人数分の歴史と思い出がある。
壁のシミ一つとってもそこに何か思いを巡らせるものはいる。
そのひとつひとつを確かめるように生徒達は教室から飛び出していった。

当然七瀬もそうしようと教室の出入り口へと向かう。

七瀬  「あれ?マーク達は?」

マークは俺はイイと手を横に振った。
ジャックの不服さ加減はまだ収まらないようでそれに付き合うつもりらしい。
もうひとつ付け加えれば真樹と共に過ごしていないこの空間に彼は何の未練も感じていない。

七瀬  「じゃあ〜私はヴァッツ君とデートしてこようかな」
軽い気持ちで言った一言だがジャックはそれを聞き逃していなかった。
ジャックがそれに対して何かアクションを起こしたわけではないが、それを確認した七瀬は満足する。

そうして二人は教室から出て行った。


そしてここに残ったのはマークとジャックの二人だけになった。



ヴァッツ 「俺にとっては半年も満たない場所だが・・・来て良かったと思っている。」
自分をここに導いてくれた存在に感謝するように彼は言った。

ヴァッツは実際のところ彼らより二つほど歳が上なのだが、学校という場所に来たことがなかったため違和感をおぼえていない。


と、そんなところに一人の女生徒が現れる。
クラスの中では地味な子だ。精一杯の告白だろう。ヴァッツとの”思い出作り”を懇願した。

断る理由がこれといってないヴァッツは彼女の申し込みを受け入れる。「悪いな」と言い残し二人は校舎の奥へと消えた。

七瀬は「ま〜〜た別の女の子ぉ??」とどこか嫌味をこめて言うと、することがなくなった自分に気づく。
そこでマーク達が寂しがってるといけないと思い教室へと引き返した。

彼女が教室の前までたどり着くと多少語気の荒いジャックの声が聞こえた。

ジャック 「どういうつもりだ?昨日のあれは?」

マークは一瞬何を言われたのか分からなかったが力を使ったときのことだと思い出す

ジャック 「お前は師匠に言われなかったのか?」

マークは窓の外に目を向け思い出しながら声に出した。

     「”闇の力を持つ者”はどこにでもいる・・・か・・・」

ジャック 「そして彼らがコアの存在に気づけば戦いはさけられない。なぜなら彼らは力を欲するからだ。」

     「だから自ら敵を作るな!・・・そう教えられたはずだ・・・」

マークは少し悲しい瞳をしながらジャックに言う
     「でもよ・・・師匠は言ってたぜ・・・・」



     「いずれ戦いは・・・起きる・・・ってな・・・」


七瀬はそれを教室の外から聞く以外何も出来なかった。

そして二人と一人は言葉を失う・・・・






彼らが住むのとは全く別の街の公園。

そのベンチに一人の男が腰をかけている。

彼の名は「韮内(にらない)賢一」

この場所で一人の男と会う約束をしていた。

彼宛のたった一枚の封書。
冷静に考えてそんなものに応じる者はほとんどいない。

ただ一つの事実が書かれていなければ、彼はこの場にいるどころか封書はゴミ箱の中に行っていたはずだ。


ナガレ 「待たせたな。」
警戒は持たせないようになるべく穏やかな口調で語りかける。
とは言っても彼の容姿に反応しないものは、普通はいない。

ただ一握りのある人種を除いては・・・

韮内はその人種であることを裏付けるようにナガレになんの抵抗も持たなかった。

韮内  「あんたですか?この手紙は?」

そう言って受け取った手紙を見せる。

ナガレ 「そうだ。・・・つまり思い当たる節があるということでいいんだな?」

韮内は言葉を返せない。
それは、彼の持つ悩みそのものでもあったからだ。

無言は返事であるとナガレは受け取った。

ナガレ 「順に説明をしていこう・・・」

そう切り出した途端に韮内は「ここでは・・・」と躊躇する。

ナガレ 「心配はいらない。簡単な結界を張ってある。」
    「こんな姿をした者と話していることすら気付かれん。」

韮内は覚悟を決める。

ナガレ 「まず君の持つ闇の力についてだ・・・」




七瀬は何も無かったように「なんの話してるの?」と言って教室に入ってきた。

二人は返答に困る。
ちょうどヴァッツも戻ってきた。

ジャックは少し疑問に思っていたことをヴァッツにぶつける。
彼も鳳龍会の一員であるなら知っているであろうことを期待して・・・

「”闇の力を持つもの”ってどのくらいいるんだ?」

ヴァッツ「!!」

「それとその内心を侵食されていない者って・・・」

ヴァッツは少し大きな溜息をついて答える。
「力を持つものだけで言えばそこら中にいる人間がそうだ。」
「自分勝手で他人のことなど考えない連中はほとんどそうだよ。」

ジャック「それじゃぁ・・・」

ヴァッツはその言葉を遮る。彼の不安をそうするように。

「ただ侵食度合いに応じて段階分けしているようなんだ。詳しいことは俺も知らない。」

「少なくとも表面だった力を使える人間はやはり限られているみたいだ。」

ジャックはほっと胸を撫で下ろした。
ひょっとしたら世界のほとんどが敵になるかも知れないという絶望感からは逃げ出せたのだから。

今度はマークが問う。
「侵食されないケースがあるってのは?」
ジャックのネガティブな思考に比べればこちらの方がよほど良い質問だ。

ヴァッツ「詳しいことは分からない。稀にそういう人間がいるってレベルだな。今のところは・・・」




ナガレ 「・・・・これが君の持つ力の正体だ。理解したかね?」

彼は公園のベンチでそれをじっと聞いていた。
表にこそは出していないが、彼はそれを必死に理解しようと努力していた。


ナガレ 「そしてここからが本題だ」



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ナガレ 「どうだね?」

本来なら理解する時間が欲しいところだが、彼は考えるまでも無く

「自分には関係ないっす。」

そう言ってその場を離れていった。


ナガレは1人になった公園で呟いた。

「侵食されていない者は、稀なんだがな・・・」




以前ヘイジが覚醒を確認した男・・・
彼の名は阿部圭太。

その彼は今マンションの自室で女と別れ話をしている。

ここまでなら普通の男女の話だ。

だが彼は闇の力を持つもの・・・

ただし彼の心は覚醒より遥か以前に闇に引きずられていた。


女は今日を限りにもう会うことをやめたいと言っている。

阿部にとって彼女の存在は基本的に金づるだ。
そこにあったものは愛情ではない。女も欲と見栄のために彼と共にいたといえる。
この別れ話はある意味必然である。
女は疲れていた。
人は孤独に耐えられない。だから誰かを隣に持とうとする。
最初は寂しさを埋めるためだった。
だが時間を掛けても愛は何処にも無かった。
いたって極普通に彼女は別れ話を切り出し始める。


阿部  「気に入らねぇ!」


その台詞を聞いた彼女は感情を昂ぶらせた。
阿部が働いてもいないこと、普段の生活、金の使い方等
それまで内側に溜まっていたものを吐き出すように。

言い換えればこの二人は出会った時点で破綻していた。
全てを誤魔化し、装い、取り繕っていただけである。

彼女が一方的に喋る内容はどうでもよかった。

ただ思い通りにならないことが気に入らなかった。
自分の都合に合わせてことが進まないのは、彼にとって最悪を意味する。
世の中はそうなってはいない。
彼にとってはそれすらも気に入らないことだ。

今日ここまでの流れの中で彼女がある程度の金を持っていたことを阿部は思い浮かべる。
そして阿部はただ自分の感情に従う。


今までに二度・・・


そうしてきたように・・・


阿部は常に持ち歩いているナイフを女に悟られないように取り出した。



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決意することも考えることも無く彼女を刺しに行こうとした瞬間声がする。




「やめろっ!」



玄関のすぐそばに見たことのない大柄な男がいた。



ヘイジだった。


阿部の”気に入らない”対象はすぐにヘイジへと移る。

「なんだ!テメェはっ!!」

ここにいること、土足であがりこんでいること、そして目的をそがれた感・・・

阿部は一気にヘイジへと向かい走ってゆく。刃物を手に持ったまま。

が、ヘイジは彼の一撃をなんなくかわす。
それと同時に左の拳で彼を天井まで吹っ飛ばした。

ヘイジは状況を理解している。なぜなら彼はずっと見ていたからだ。

「女・・・逃げろ」

そう言われると彼女は取るものも取らずにその場を立ち去った。

彼女がこの場にいなくなったことを確認したヘイジは「さて・・・」と阿部にゆっくり近づく。

途中置き去りになっている彼女のバッグがあった。

それを拾い上げ「あとで返しておくか」と言ったところで阿部が口を開く。

「それは俺のだ・・・」

ヘイジは不快に思いながらも阿部に語りかける。

「驚いたな・・・覚醒を済ませているとはいえ耐性があったか」

阿部は頭を打ち付けていたため出血している。その他にも全身が打撲状態だ。

「うう・・」と苦しんでいる阿部を見て少し笑いながらヘイジは続ける・・・


「今日はお前にいい話を持ってきた」






ヴァッツ 「稀なケースということは、裏を返せば闇に進むものが大半という事実」

マーク  「・・・・?なんだ?」

ヴァッツ 「増殖する”闇の力を持つもの”に対して鳳龍会は社会秩序維持を目的としたことを行っている。」

ヴァッツはもう少し時間が経ったら言おうと思っていたことを口にした。
どちらにしても残りの時間はあまりない。ならもう話してもいいだろうと・・・

ヴァッツ 「闇の力を持つもの同士が戦う格闘技大会・・・」





「CRAZY BATTLEだ」




ヘイジ 「条件は今話したとおりだ。まぁ2ヶ月・・・お前のケガも全治2ヶ月ってとこか?」

阿部は答えない。だが彼が話した条件はあまりにもおいしすぎた。

ヘイジは最後に「賞金5億!」この言葉を阿部の心に刻んで出て行った。





夜になったある田舎町。都会と違って闇が深い。

ヒデキはそこである少年と話していた。
内容はヘイジと同じこと・・・

現在鳳龍会は組織の人間の大半を使ってこうして大会への準備を進めている。

ヒデキもこれまでに何人かの”闇の力を持つもの”に接触してきた。

だが、今日会った少年は今まで会った誰とも違っていた。

目は虚ろ、それどころか焦点があっているかも分からない。
いつも通りにヒデキは説明をしているが、話を理解しているのかも分からない。

ヒデキが受け取ったリストの中では確実に上位にランクされていた少年だった。
ただし一般的な危険度は不明。

ヒデキは(確かに力は持っているが・・・気に掛ける必要はないな)
そう判断した。

提示されている条件”今後大会開始までの2ヶ月間犯罪を犯さないこと”
ヒデキはこれを説明し最後に


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「忘れるな!私はお前を監視しているぞ!」
そう告げる


彼は少しの間の後

「・・・うん・・・・分かった」
と答えた。
本当に理解しているのか・・・そう思ったヒデキは溜息をついてその場を立ち去る










ヒデキが立ち去ると少年は口元を大きく歪めた。





〜続く〜




第十七話




ヒデキが接触した男

彼の名は松本順二


彼は冷凍庫から取り出したアイスを食べ終えて、書斎へ向かっている。

そうして書斎へたどり着くとおもむろにパソコンを弄りはじめる。

マウスに触れると先ほどの感情が甦ってくる。

彼はまた悦に入った



普通ならば何の変哲もない日常の光景。


ただしここは、彼の家ではない。



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この日この家の人間は一人もいなくなった。







場所は変わって鳳龍会本部

廊下を歩いているナガレを呼び止めるものがいる。





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ナガレ 「ヘイジか」「お互い任務があったとはいえ久しいな。」


ヘイジ 「メンテだ。」

ナガレ 「そうか・・・そんな時期だったか。」

ヘイジ 「それよりも」
ナガレの台詞を遮るようにヘイジは続ける

    「聞いたぜ。」「同期ってのが何なのか」

「・・・・・」

ナガレ 「遂に知ったか・・・」「そういうことだ・・・コアの中には」











マークの部屋。いつも通りここには3人が揃っている。

部屋に置いてあるテレビでは朝から一家殺害のニュースで持ちきりだった。

マーク  「胸くそ悪くなる事件だな!ったく。」

報道はこの家での人間関係などに言及し始めている。

ジャックは、画面を見つめヴァッツに問う。
     「やっぱこういうことする奴ってのは、闇の力の持ち主なのか?」

ヴァッツ 「なんとも言えないな。テレビでの報道なんていい加減だし・・・」

自身の経験から彼は言う。
ヴァッツ覚醒時のことは勿論隠蔽できる話ではない。
マンション3つが崩壊したことは、すぐに事実を捻じ曲げられて報道された。
無許可で火薬の調合をした会社がマンションの一室にあった。そこでの事故に加えて温泉施設のボイラーに引火した。
適当な言い訳はすぐに作られる。
当然疑問点も残るのでアレから時間が経った今でも時々この件は番組にされている。


ヴァッツ  「でもこれが快楽殺人の類ならその可能性は極めて高いだろうな。」
      「鳳龍会の連中が押さえてくれてればいいんだが・・・」

マーク   「どういう意味だ?」

ヴァッツ  「表の世界で捕まえることが出来ないような奴を社会から排除するのも仕事なんだよ。」

ジャック  「排除・・って・・・」

ヴァッツ  「そのうち分かるさ」

      「それよりも・・・卒業式ってどんな感じなんだ?」

ジャック  「ウチの学校は普通のやり方じゃないらしいんだよな・・・・リハもないし。」

マーク   「おかげでこうして休んでいられるわけだ。」





卒業式
この地域では元々元服の式典を15才で行っていた。
その名残は、現在中学校の卒業式に祭りをするという形で残る。
ただしそれは、大人が祝う形をとっているため内容は伏せられている。
また15才を祝う式典なので在校生は出席しない。

在校生が参加するのは会場を作ることのみといった珍しい卒業式である。





第十七話 プロローグ 〜卒業〜



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七瀬  「ほら!そこサボらな〜い」
彼女の声が体育館に響く





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”生徒会長”として彼女は会場作りの指揮をとっている。
これが自分の最後の仕事であると思うと色々とこみ上げてくる。


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重本  「いや、前生徒会長が会場作りに参加するなんて異例ですよ。」
    「最後の最後まで僕は影が薄い存在になってしまいました。」
笑いながら話してはいる。が、彼の心中はいかばかりなものか。

重本  「高校入ってまで世話をやきにこないで下さいよ。・・・・ったく。」


七瀬  「べ〜〜だ。」「そこまで言われたらあと半年くらいは頑張っちゃうかもしんないよ?」
意地悪そうに彼女は言った。

    「でも実際のところ学校遠いから・・・そう簡単にここにはもう顔出せないね。」
寂しそうに呟いた。

重本にあとは休んでくれと言われると彼女はおとなしくこの場を立ち去ることにした。



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このあと学校は二日間完全休校となり卒業式を迎える。



七瀬   「おはよー」

三人はいつものように挨拶を返す。

ジャック 「こんなに早く学校来るのも今日が最後だなー」
色々な意味が込められてることに七瀬は気づいていたが、あえて彼女は普通の返し方をした。
七瀬   「だからって高校入ってから遅刻の常習者にならないでよ。」    

そのとき七瀬は自分の机にあるものに目がいく。

七瀬   「あぁこれね〜」

そこには手作りの紙製の花が置かれていた。
よくみるとそれは全ての机の上に置かれている。

七瀬   「私たちも1,2年の時に作ったんだよね〜。」

ヴァッツがこれがなんなのか分からなそうにしているのを見て
「こう付けるんだよ」と七瀬が胸元を示す。

そのときふとマークのほうへ目を向けると様子がおかしいのが伺える。

三人   「?」

ヴァッツ 「どうしたんだ?緊張したような顔して・・・」

マークは答えない。

ジャック 「卒業生は黙して語らず、な卒業式だ・・・何やらされるか分かったもんじゃないしな。」
そう言ったときにマークは「ちょっとトイレに行ってくる」と言ってその場を去った。

三人は顔を見合わせるがマークが何故そんなに緊張しているのか理解できなかった。




式は最初の30分ほどを通常の卒業式と同じように扱う。
そのため最初は父兄そして”お祝いをする大人たち”がすでに席に着いている。
学校祭のときと同じように近隣の人たちが多勢を占める。

その中にはチヅルの姿もあった。

当然監視の一人としての行動のひとつではある。
だがそれ以上に”あの子達”の卒業を見守ってあげたいという気持ちのほうが大きかった。

午前8:45卒業生入場



若干の緊張もあるが”ガヤ”が消えるほどではない。



それぞれが、それぞれに描く卒業を胸に・・・・



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午前9:00  銃声が響き渡る














〜続く〜


第十八話




午前九時 卒業式開始のそのとき体育館の入り口が突然開く!

二人のマスクを被った男が突然機関銃を乱射した。



この場にいた誰にもこの現実を理解できた者はいなかった。






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ただ一人・・・それでも認識としてはやや遅れてヴァッツがこれが現実であると気づく。
血の臭いが彼にそれを教えた。

せっかく手にした暖かい現実とのギャップに彼は取り乱した。




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その彼を抑えたのは、倒れていたチヅルだった。

彼女の言葉がヴァッツを冷静にさせる。

”敵”に向かいながら襟元のホックをはずし戦闘体制へと入る。





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ジャックが認識できたこと・・・
それは、爆発は起きたがヴァッツは瓦礫に埋まることなく向こう側へ行けた。

ただそれだけであった。






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「クックックックック・・・・・・・・・・」







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「その1〜introduction〜」















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監視者としてもう一人ヘイジが来ていた。

彼はその容姿ゆえに普通に彼らの傍にいることは出来ない。
たとえ離れていたとしても目立ってしまう。


それゆえに彼は、学校の裏山・・・例の場所の近くから結界を張って様子を窺っていた。

彼の目に飛び込んだのは学校だけではない・・・街全体が・・・・




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再び校内




現実が奪われる。

生徒の中には未だにこれが”例のイベントの一部”としか思えてない者もいた。

だが現に建物の一部が破壊されている。

これが、全てをあらわしていた。


そして
壇上の男がその場にいる人間に叫ぶ。



「諸君らの罪は、日本人であることだ!!」



そうして持っていた銃を構える素振りを見せたその時・・・・

父兄席でまだ無傷だった男が一人この狂気に耐えられず叫びだす。

「ウワァァァァァァァァァ!!!!」

そしてステージを前方として右側のドアへと走り出す。
誰もそれを見ていることしかできない。

ただ一人ジャックだけが心の中で「だめだ!」そう思っていた。
確信もなく口にすることは出来ない。

男がドアへ一歩また一歩と近づく度その思いは強くなる。

ドアは丁度指の分だけの隙間が空いていた。
男はそこに手を掛け思いっきり横へ開く。

そして外に勢いよく飛び出した瞬間・・・



男の足元から爆発と共に炎があがった!


黒焦げになり男はその場に倒れる。
一瞬だけ体がピクっと動いたが、それ以上動くことは二度となかった。

それは彼が死んだことを意味する。
その場にいた誰もがそれを理解した。

彼の死因はショック死だが、そんなことはどうでもよかった。


七瀬は、走り出す直前の彼の顔を思い出していた。
その場でまだ生きているほとんどの人間が同じことを思い出していた。

古くから続く地元のスーパー。
スーパーと言っても半分の作りが市場に近い。

彼はそこの鮮魚コーナーを担当している人物だった。

魚屋のおじさん・・・
七瀬が幼い頃からずっと知っている・・・そんな”おじさん”


彼は今・・・・・・・・死んだ。




一瞬の静けさの後全員が反対側のドアへと一斉に向かう。






「動くな!!!!!!!!!」




そう叫んだのは、壇上の男ではなくジャックだった。




マークはそれを聞いて確信をする。


マークは終始壇上の男から目をそらさない。
だからジャックへの言葉も背中越しだった。







「全員をここから逃がせ!」








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〜続く〜


第十九話





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その2〜動〜






ジャック 「な、何を言ってるんだ・・・・マーク・・・・」

混乱に重なる混乱
絶望と不安に足元の感覚が狂っている

マークが何を言ってるのか・・・たったそれだけのことを理解するのにも時間がかかる。

頭の中で情報を整理しようにも混乱が重なるために障害が起きている。
今のジャックはそんな状態だ。

だから咄嗟には、言葉も出てこない。


ジャック 「そ、そんなことよりも・・・・」

不意に出る言葉にマークが叱咤する




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マークの言葉がジャックを冷静にさせる。

そう。ジャックはすでに事態を理解出来ていた。
混乱と不安がそれらを結合できないでいただけだった。


マーク 「だから・・・お前が決めろジャック!」

マークは理解することを既に放棄している。当然考えることも・・・
それゆえにジャックに託している。

そしてそれは、これまでの二人の関係そのものでもあった。

それが、ジャックの心を正常なものへと引き戻させる。

ジャックは一言「分かった」と相槌を打つとゆっくりと考え始める。


唯一の出入り口は塞がれた。
不自然に開いていたドア。

最悪の事態を考慮する・・・・・






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マーク 「その炎に触れるな!!!ここは任せろ!」


ジャックは、一瞬驚きはしたもののこれがマークの覚悟だと悟る。

そうすると彼は、右前方のドアの前に立った。

ジャック 「全員俺の後ろへ!!!」
そう叫ぶ。
不安な人間が大半だがもはや出口はここしか残っていない。

突然男子生徒の一人がジャックに突っかかる。
「なんでここ・・・いやそれよりも・・・この炎とか・・・」

言いたいこと聞きたいこと全てがごちゃ混ぜになり言葉にならない。

ジャックはその男をなだめるように言う
「必ず生きて出れるから・・・」

そして「チヅルさん!生きてるなら皆を誘導してくれ!」



そしてジャックも覚悟を決める。
「俺が先に出る!・・・文句はないだろう・・・」

右側の出口は先ほど一人が死んだ場所と重なる。
その不安を払拭するために彼は言った。

その前にやらなければならないことが一つあった。








ジャックの考え方はこうだ。

@出入り口が塞がれることによって左右どちらからか逃げるしかない。
A左右のドアは重いため少しでも開いているほうが有利になる。
Bそしてそれ自体がトラップ。
C右側のドアが使えないと判断した人々は逆側へ走ることになる。
Dそしてそれもトラップだということ。
E左側のドアの向こうはグラウンドがあるが・・・
それともうひとつ
F壇上の男が逃走する経路が必要なはず
Gグラウンドに逃げることは、狙撃される可能性があるため無謀
H右側前方のドアから出れば自転車置き場の屋根が身を守る。


そうそこが唯一の出口。
だが、そこが逃走経路でもあるならばそこには敵がいる可能性が高い。


ジャックは身を構える。
敵を感じて打つあの技を・・・・





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チヅルは感じていた。
背後から撃たれたとき・・・・



ここだけではない・・・・街中が


悪意に包まれていたことを・・・・



それが彼女を次の行動へと移す阻害になっていたことは確かである。



ヘイジ  「ところで、ここはどうなっている?」


その質問を遮るようにチヅルが叫ぶ!

「それよりも!」


「こっちには負傷者が多数いるわ・・・まずは、病院への直通の結界を作って!お願い!」


ヘイジ  「しかしこの状況じゃぁ病院だって、どうなってるか分かったもんじゃないぜ!」


チヅルは、それも遮るように言う。

「大丈夫ヴァッツが抑えてくれているはず・・・だから・・・」


チヅルがあのときヴァッツに掛けた言葉

街中が悪意に包まれたと同時に彼女は認識する

「これは、テロよ!まずは病院を抑えて・・・」



それを最優先にしたのには目的があったが・・・



回復までに多少の時間が掛かった。
今はこの場にいる人々を先導するくらいは出来る。

ヘイジの作った結界を自分の後についてくるように指示をする。
無事な人間は負傷者に手を貸しながら彼女の後ろをゆっくりと歩く。

チヅルは振り返らない。
正直・・・それをするのが怖かったのだろう。


続々と人が歩き始める。


そんな中先ほどジャックに突っかかった生徒があらためて彼に問う。

「なんでこっちなんだ・・・」

言葉に力はない。
ただ無事に出られた・・・それだけしか今はなかった。それでも聞かずにはいられなかった。


ジャック  「自爆型のテロじゃないってことは、何かを要求するんだろう・・・」

      「体育館の出入り口はなく左右の扉のみが外界へ繋がる方法だ。」


そんなことくらいはまでは理解した。だがジャックはもっと恐ろしいことを言い始める。
ここから先は誰にも言うなと口止めをしたうえで・・・。


ジャック  「自転車置き場がある以上交渉の窓口はグラウンド側に限られる・・・。」

      「相手がマスコミだとして最も効果的なのは死体の山を見せることだ!」

      「つまり・・・あのグラウンドは・・・」


      「地雷だらけだよ・・・・。そして・・・」








壇上の男が言う



「人質なんざぁ一人いればいい・・・・」





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「お前の血液型をきいておこうか?」
冷徹な笑いを浮かべながら彼は続ける。

しかしマークは答えない。

ジャックならその目的が何なのかを考えるところだが、彼の場合は違う。

すでに臨戦態勢だ。


「答えないか・・・まぁいい。すぐに調べて輸血してやるよ。」
その言葉には優しさなど欠片も無い。


「βは残れ!残り3人で奴の四肢を切り落とせ!」






「マスコミの前にぶら下げてやる・・・ククククククク」







ジャック  「分かったら行けよ。」

男はその場から逃げるように離れた。

ヘイジは中のことをジャックに聞きだす。

「なんだと!!!!」

ヘイジはこの場を離れることを促すがジャックは首を横に振る。


ジャック  「さっき分かった。この校舎にはまだ20人くらいの”敵”がいる。」


ヘイジ  「しかし・・・」

先日のナガレとの会話が甦る。



ジャック  「”冷静になれ!!!”あいつはそう言ったよ・・・」


      「ガキのころからそうだった・・・だから・・・」




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〜続く〜


第二十話







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ジャックの手が震えていることをヘイジは見逃さなかった。

ヴァッツとは違い彼にはまともな戦闘経験がない。ましてや相手は人間だ。

そこにある恐怖や不安を想像するのは容易だった。

だがここで引き止めたとして、その意思が変わるとも思えない。
何よりも恐れなければならないのは彼自身の暴走・・・

それ故にたとえ”僅かばかり”であろう構わない。少しでも不安を解消出来るならという思いでヘイジは伝える


「鳳龍会の仲間が全国から集まってくる・・・だから無茶はするな!」



しかし背を向けたまま表情も見せずに彼は言う

「その間・・・黙ってたら事態は悪化する一方だろ!」

その口調に力は無いが、確かな意思を持って答えているのがヘイジにも伝わる。

だから


だからそこから先は言葉は要らなかった。

お互いがお互いの役割を果たす。

ジャックもヘイジも


そしてヴァッツもチヅルもマークも!



ジャックは、正面玄関へと向かった。






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この街に一組のカップルがたまたま遊びにやってきていた。

男のほうは松本順二。

なりゆきで付き合っていただけの女。
後先考えない無知な女に順二は最近わずらわしさを覚えていた。

ちなみに順二がこの街にやってきた理由は、全く別の彼の”趣味”・・・その下調べである。

街がこんな状況にあることを知らない彼らはただ普通に歩く。








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〜続く〜






第二十一話







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〜続く〜






第二十二話






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日本の一番長い日その5〜渦〜









ゴトーは、戦後間も無い日本に生まれる。

所謂みなしごとして育った。

誰もが等しく貧しかった時代故に不満はなかった。

しかし彼は、15才になると同時に社会へと放り出される。


行く当ての無いまま彼は、とある船に乗り込むことになる。
その船は一般の商船で彼はそこで働くことになった。

仕事にある程度なれると彼は、色々な世界を見るために次々と乗り込む船会社を変えていく。

そして


彼がいた場所は、ベトナムだった。
アメリカ軍の外部部隊の一人として南ベトナムで戦うことになる。








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元々死と隣り合わせの仕事ではあった。

どうせ行くあてなどない。

戦い方、そして生き方は次第に身についていく。

やがてゴトーの人生は


”ただ生き延びること”が目的となる。


そんなあるときの出来事。


いつもの戦闘の最中四つの銃弾が彼の耳を掠める。








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運がいい



これが覚醒の瞬間だった

彼は、武器がなくなっても必ず帰還する奇跡の軍人として扱われるようになる

居心地が良かった。
この力が持続する限り死ぬことは無いと思った。

生き延びると言う最大の目的をこなしている自分に満足していた。


しかしそれも十数年程度で終わりを告げることになる。

1975年。
イデオロギーの対立として冷戦の代理戦争であったベトナムは戦争終結する。

もともと国籍の違うゴトーは、正式な軍人でもなかった為わずかばかりの金を受け取った後日本へ戻ることとなる。



戦場に己の生きがいを見つけていた彼に待っていたのは、多くのベトナム帰還兵と同じ喪失感だった。
アメリカでは、戦場の過酷さから精神に異常をきたしたものが犯罪を犯し社会問題となった。


彼が久々に踏んだ日本の大地は、自分の知る景色ではなかった。
全てが華やいで見えたが、それは己とは対極の存在だった。


ただ喪失感のみが己につきまとう日々が続く。



そんな折彼は、一冊の本に出会う。



反日亡国論



取るに足らない左翼の極論をまとめた本。
だがこれが、彼の人生を大きくゆがめることになる

戦後教育であることも含めて、彼に祖国と言う概念はかけらも無い。
海外で生き続けてきたことがそれに拍車をかける。

彼の居場所は日本には無かった。つまりはこの国に捨てられたのだ。

彼の感情は、否応ナシにその思考を受け入れていく。



それから二年の間・・・
この国の歴史を一から徹底的に調べ続けた。
ただし、彼の思考は既に歪んでいるため真実は全て捻じ曲げられる。
自分にとって都合の良い情報だけが全てとなりそうして形成される思想は、危険以外の何ものでも無い。

様々な文献をあさりやがて得た答えは



日本人であることは、罪である。



反日亡国論の示す答えそのものを受け入れ、そして彼の人生となる。






その後すぐさま日本を飛び出し各国の戦場を回りながら同士を、そして自分を受け入れる国を探す。

戦場を回っているうちに彼の力は成熟期へと達し不老となっていた。

それを認識していたか定かではないが、彼の計画は十分に時間を練られて作られそしてある国へと辿り着く。









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〜続く〜






第二十三話






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運がいい!!







〜続く〜


第二十四話




ゴトーの記憶が蘇る。

様々な文献を漁りこの国について調べていたとき・・・

なんどか目にした単語”魔核”

調べればそれは、一国をも滅ぼす力を持っているという。

もしそれを手に入れることができるならば誰の手も借りずに目的を成し遂げることができる。

だが、彼が調べ続けているとある時代を境にその言葉は、一切出てこなくなる。

現実に再び戻ることでそれらは、忘れ去られていた。



しかし・・・





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〜続く〜




第二十五話








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第二十五話 覚醒  /終了








〜エピローグ〜






地下深く明かりがろくに届かない場所・・・

山のように積まれた食料を背に男たちの会話が始まる。




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この一連のテロによる死亡者は、512名



この内に



マークとジャックの両親四名を含む・・・










第一章 覚醒編 完


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